銀月



「―――この道を使うのは、もう少し先のことだと思っていたが」

ダリスの地下に広がる抜け道を、勝手知ったる様子でアルムレディンは走る。
抜け道は、脱出路となると同時に侵入路にもなりうる。だから、王族の争いは、畢竟、殺し合いになるのだ。
殺し損ねれば、暗殺を許すことになる。―――まさに、今の自分のように。


饐えた臭いは強くなり、地下道に灯る魔力の灯りが随所欠けはじめる。
中心部に近づいた証だ。吸い上げられた魔力の影響が色濃くなっている。
土壁は何箇所か焼けた跡があり、刃物で斬りつけたように削れているところも目立つ。

「脱出した頃より、ひどいことになっているな……」

ここまで荒廃が進んでいたのか、と愕然とする。そして同時に、今決意をしてよかった、と安堵する。
時を稼いで好機を待てるほど、故国に猶予はなかったのだ。

……『成功』は、しないだろう。だが、『失敗』さえしなければ、それでいい。

―――ダリス王さえ、斃れさせることができれば、我が身の安全など、どうでもよいことだ。

王位を取り戻したいのではない。ダリスを救いたいのだ。
そのために初恋の姫をも殺す決意を出来るなら、自らの死を賭してするべきは、こちらだったのだ。

―――他国を巻き込む前に、気づくべきだったな。



幾つもの分岐を迷わず選び、地下通路の最奥に置かれたエーべ神を模した彫像の前で、アルムレディンは足を止める。
彫像に手をかけ力を込めると台座が回り、ぐるりと完全に1回転させると、重い音が響き、彫像の後ろに隠された階段が現れる。

迷わず飛び込んだアルムレディンは、走りながら仕掛けが再び元通りに隠されていく音を耳に捕らえたことで、すでに彫像からは意識を切り離したため、完全に隠し階段が閉じる直前、ひとつの影がそこに躍りこんだことに気づかなかった。




かつては父の部屋だったダリス王の居室。
そこで、アルムレディンは剣を抜いていた。


「―――ダリスはもう終わりです。あなたの所業が、ダリスを崩壊に導く。この上は、どうかお覚悟を」

対するダリス王は、震える手で、ゴテゴテとした派手な装飾ばかりが目立つ剣を抜いた。
怯え、震える隙だらけのその構えには、王としての贅に慣れた弛みが隠しようもなく滲み出ている。

「……アル…アルムレディン……!…お、王位は渡さないぞ、私が、ダリスの王だ!」

ダリスの荒廃には目を向けず、位にしがみ付くだけの男に、王者としての風格はもはや微塵もなかった。
かつては叔父と呼び、先達として慕ったこともある男の成れの果てに、アルムレディンは哀しげに目を細めた。

「……王位は望みません。血濡れの咎は潔く負いましょう。ダリスは、王家と諸共に滅びます」

懐かしさを感じる部屋を血に汚す覚悟を決めると、アルムレディンは剣を構えなおし、床を蹴った。



―――キィンッ!と、甲高い音が、あたりに響いた。



「……お生憎ですけど、貴方に王を殺させるわけにはいかないのよ」

アルムレディンの剣は、ダリス王に届く前に、細い剣に阻まれていた。

自分が振るった剣を受け止めた、細い剣の使い手を、アルムレディンは驚愕の表情で見つめていた。
顔の半分を黒布で覆い、流れるような空色の髪が風を象るように揺れる、女剣士。

ダリス王は恐怖の表情を喜色へと染め替えて、新たな闖入者を歓待した。

「―――おお、白鴉!良くぞやった!さあ、この謀反者を、殺すのだ!」

白鴉と呼ばれた女間者は、受け止めた剣を力任せに押しやり、数歩後ろへと飛び退りアルムレディンと距離をとる。



「殺したいならばかかってくるがいい。とうに覚悟を決めた身だ。いまさら惜しい命でもない。
だがそれとてこの刃は止められぬ。他国に害を及ばせたダリスの過ちは、我ら王家の血を以って贖わねばならない」

大儀のために迷わず剣を向けてまっすぐに自分をみる金髪の剣士。
アルムレディンのその姿に、白鴉の脳裏で、他の人影が重なった。

「……貴方に、よく似た騎士を知っているわ、王子さま」

忍び込んできた地下通路で命を狙った白鴉を制してなお白鴉に優しさをみせた女騎士。
沈み行くダリスをどうすることもできず、ただ闇雲に足掻いていた白鴉に、クラインのみならず、ダリスを救わせて欲しいと告げた、金髪の少女。
誰もが絶望する暗黒の淵で、なお一筋の希望のために命を賭ける。
彼女は生かし、彼は殺す。選んだ方法は違えども求めているものは同じ。

「……わたくしも、あの騎士の影響を受けてしまったのかしらね」

ダリスが滅ぶなら国と運命を共にするだけ、と厭世していた自分を突き動かすのは、いつでもこんな、まっすぐな瞳で。



「白鴉、何をやっている、早く、早くこいつを殺すのだ!」

手前勝手なことを喚く王の声を背に聞きながら、女はふっと笑みを浮かべた。

―――わたくしは、暗闇に生きる白鴉。策謀と殺戮に彩られた、暗黒の世界に属すもの。

空色の髪の女間者は、得物である細剣を閃かせた。
どっ、と重い音を立てて、男の背が鈍く光る金属で貫かれる。

「―――な…っ!」

ふたりの男の驚愕の声が、そのとき完全に重なった。






床に出来た血溜りに、横たわるのは亡骸ひとつ。
こうなっては、王の肩書きも、死出の手向けとなるものですらない。
かつては叔父と呼んだこともあるその遺体の脇に膝をつき、絶命を確かめると、血に濡れた細剣を一振りし血を払う間者へと視線を向けた。

「お前は、ダリス王の間者ではなかったのか」

王の殺害を咎める権利はない。そもそもそれを成そうとしていたのは自分自身だ。
だが、彼女が自らの主に牙を向いた理由を問わずにはいられなかった。

「ダリスの間者よ。ダリスのために生き、ダリスのために殺し、ダリスのために死ぬ。―――『王のため』ではないわ」

「……王を殺すつもりだったのなら、見ぬふりをしていれば済んだろう。……なぜ止めた?」

「貴方、自分が手を汚したら王位を捨てるつもりだったのでしょう?」

血を払った細剣を鞘に収めた女は、呆然と自分をみるかつての皇太子に一瞥をくれた。

「おそらく貴方以外の王ではクラインとの戦争を避けることはできない。
それに、貴方以上にまともにこの国の舵取りをしてくれる人は望めそうもないしね」

だからあなたの手は奇麗なままである義務があるのだ、と言外に告げた白鴉を、少し恨みがましい目で睨んだ。

アルムレディンは、くしゃりと自分の前髪を掴んでため息を吐く。
あの銀髪の少年といい、この空色の髪の女間者といい、―――どいつもこいつも、人の決意をあっさりと阻んでくれて、数え切れぬ覚悟を経ても、いっそ滑稽なほどいまだ自分の手は人の血に濡れぬままだ。

アルムレディンに背を向けて、肩越しに振り返ると、女間者は妖艶に笑った。

「……王位にお就きなさいな、皇太子アルムレディン。
過ちは王家の血を以って贖うというのなら―――貴方が道を誤ったそのときに、わたくしが殺しにきてあげる」

「―――その言葉、違えるなよ、白鴉」

そうして、アルムレディンも白鴉に背を向ける。
白鴉は闇の世界へ、アルムレディンは表舞台へ。互いに課せられた使命を全うするために。



こののち、アルムレディン=レイノルド=ダリスの即位と、彼の名においてクラインとの間に講和が結ばれることになる。






そして王女ディアーナは王都へと帰還を果たす。

異例の速度での締結を見た反ダリス同盟の存在と、ダリスの新王の即位によって、カダローラ全土に及ぼうかという不穏な気配は急速に終息を見ることになり、前王との間に交わされるはずだった婚儀も必然的に白紙とされる。
とはいえ一朝一夕に平穏が戻るわけでもなく、国境に配した軍隊の撤退、ダリス国内外に散らばる不穏分子の鎮圧など、国全体が事後処理に奔走する日々が続いていた。


慌しく情勢の動くさなか、ディアーナは、雑事の合間を縫って時間を作っては、神殿に訪れていた。
叶うなら騎士団の宿舎にも顔を出しお見舞いをしたいが、騎士団はいま、王宮に次いで忙しい場所と言っていい。
いかにディアーナがお転婆でも、行っていいときと悪いときくらいはわきまえているつもりだ。
―――だから、その代わりに。



祭事も礼拝もないときの神殿は人気も少なく、やたらと大きな建造も、静謐を纏うことで荘厳さを増している。
天井に嵌められたステンドグラスから差し込む眩い陽光をその身に浴びながら、ディアーナは女神エーべを模した大きな彫像の前で膝をつき、白い指を組みその瞳を閉じ、厳かに女神に感謝を捧げる。





「―――あれ、先客かぁ。……って、お前……!」

ギィ、と重い音を立てて神殿の大扉が開かれ、次いで聴こえた声に振り向くと、そこにはガゼルの姿があった。

柄にもない場所で顔をあわせたのが照れくさいのか、ガゼルは頭を掻きながら視線を逸らせた。
ディアーナ自身は、彼と神殿で会うのは初めてのことだったが、意外にガゼルは礼拝に重きを置くのだとシルフィスから聞き及んでいたので、驚きの感情はさほど沸かない。ふふと微笑んで立ち上がり、ガゼルのために礼拝の場所を譲る。

ぼけっと突っ立っているのも間抜けか、と漸う腹を据えて、ガゼルは扉を閉めると礼拝堂へと足を進める。



「……どーしたんだよ、その頬」

肌の色もはっきり見える位置まで近づいて、視線を合わすなり驚いたように眼を剥いて、頬を凝視された。
ガゼルの驚きに心当たりのあるディアーナは、苦笑いをしながら、その仄かに赤く跡の残る頬に自分の手を当てる。

「メイが、目を覚ましましたの」




メイが気がついたという報告を受けて、とるものもとりあえず彼女の部屋へと飛んでった。
目を覚ましたばかりの半病人との面会にキールには渋い顔をされたが、拝み倒してほんの少しの間だけ、許してもらった。
いつもならお日様のような明るい笑顔を浮かべるはずのその顔にはまだ疲労の色が濃く、完全には血色も戻っていない。
無表情で部屋着に上掛けを羽織った姿でベッドに身を起こしたその姿は痛々しい。

ディアーナは、メイと視線が合うなり、泣きそうに顔を歪めて幾度もごめんなさい、ごめんなさいと謝った。
無言でその様子を見ていたメイは、ため息をひとつつくと、ディアーナの名を呼び、ちょいちょい、と手招きをする。

促されるままメイの傍近くに寄ると、突然、頬が鳴った。
ディアーナは突然の衝撃にきょとんとした表情を浮かべ、やや遅れて感じてきた痛みに、ようやく自分が平手打ちをされたのだ、と気づいた。

「黙ってたことと、心配かけさせたことと、バカなことしたの、怒ってるわ。―――でも、これで全部チャラにしたげる」

だからもう謝るんじゃないわよ、と続けたメイは、次の瞬間ディアーナをぎゅっと抱きしめた。

「―――おかえり、ディアーナ」





話を聞いて、ガゼルは堪えきれずにぷっと笑いをこぼす。
メイの叱責は直截的で、後を引かずに鮮やかだ。しかしそれ以上に。

ガゼルでは喧嘩したとしてもディアーナに手を上げることなど出来ない。
兄であるセイリオスも絶対に無理だろう。他の面子は言うに及ばず。
身分を越えた友情を育んでいるという意味ではメイと同様のシルフィスでさえ、その垣根は越え切れない。

「説教やお小言ならともかく……お前を引っ叩けるやつなんて、クライン広しと言えどもメイくらいだな」

「そうですわね」


張られた頬はいまだに微かな痛みをもつけれど、あんなに優しさが込められた平手打ちを、ディアーナは他に知らない。
帰都してからこちら、みなが腫れ物を扱うかのように自分に気を遣うのがディアーナには苦しかった。
けれど、メイにしっかり怒られて、ガゼルにそのことを笑われて、ようやくディアーナは落ち着くべきところに落ち着いた気がした。





耳を澄ませば、王都の街のざわめきが聞こえる。

人々の笑い声の絶えない街角、威勢の良い呼び込みの声が響く大通り。
広場には鳩が群れを成し、道行く人の動きにあわせて飛び立つ羽音が耳に心地よい。
冬の寒さを覆い隠すように陽射しはうららか。傍らには愛しい人がいて、視線が合えば笑いかけてくれる。

―――ああ、守りたかったものが、ここに在る。


犠牲を決意して、王都を後にして。
追いかけて、護って、取り戻して。
過ぎ去ってみれば一月にも満たないはずの日々。
それらによって得たものは、けして無視できない大きさとなって、胸にともる灯火となっている。





手を組んで膝をついたガゼルの傍らで、ディアーナももう一度膝をつき、女神に捧げる静かな祈りの時間を共有する。

ふたりだけの礼拝のあと、先に立ち上がったガゼルが差し出した手を、ディアーナがとる。
そのまま無言で自分の手に置かれた白い手をじっと見つめるガゼルに、ディアーナは訝しげに首を傾げる。



ディアーナの、白く細く、美しい手。
このほっそりとした手を支える肩はとても小さくて。
いっそ頼りなくも見えるその小さな肩には、国一つを背負って護ろうとした大きな決意が隠れていて。



ガゼルはディアーナの白い繊手をとったままその場に跪き、その指先に口付ける。

「……騎士ガゼル・ターナの名において、女神の御前、ここに宣誓する。
この命が尽き、この身が朽ち果てるその瞬間まで、我が君ディアーナ姫に忠誠を捧げる」



神殿にて姫に騎士が誓いを捧げるその姿は、吟遊詩人が見れば英雄詩の一場面になりそうな、完成された騎士の礼。
けれどディアーナには心に軋みを呼ぶものでしかない。

「―――っ、ガゼル!わたくしは、貴方の『忠誠』なんて―――」


臣下の礼をとって欲しいなんて、一度も思ったことはない。
王女の身分を知っても変わらず対等に親しくしてくれていたガゼルが、突然こんなことをするなんて。

「先に勝手に『王女』になっちまって俺から逃げてったの、お前のくせに」

少し意地悪く笑って言ったガゼルのその言葉に、ディアーナは何も言えなくなってしまう。

「そ、それは」

「ごめん、意地悪言った。………うん、わかってるよ。お前が守ろうとしてくれたのがなんなのか。
わかってる。……わかってるんだ。でも、それでも俺は悲しかったし、腹が立った。―――俺自身に。
最終的にダリス王に嫁がずに済んだのだって、結局のところ俺の功績じゃない。
俺一人の力じゃ、惚れた女ひとり取り戻すこともできない。悔しいけど、それは事実だ」

寂しげに天井を見上げて淡々と語る少年の姿に、ディアーナは声を詰まらせる。



「……違いますわ、ガゼル!」

ディアーナはガゼルの首にその白い腕を絡めるように抱きついた。

たしかに、ガゼルひとりでどうにかなった事態ではなかった。
刺客がアルムレディンでなかったら。メイが無理をして近隣諸国を回ってくれなかったら。シルフィスが大樹の代替わりを成してくれなかったら。王都のセイリオスとシオンが好機を逃さず動いてくれなかったら。
いくつもの歯車の、どれかひとつでも欠けていたら、ディアーナは今ここにこうしてはいなかったろう。―――けれど。

自分に愛想を尽かして欲しいと思いながら、その反面、どこかで疑いもなく信じていた。
きっと、彼はディアーナのために泣くだろうと。
自分の決意を揺らがせてしまうだろうとわかっていたから、会わずに王都を後にしたのに。

―――それなのに目の前の少年は、ディアーナの予想をはるかに超えて、奈落に落ちるこの身を救い上げてくれた。

「わたくしを助けてくださったのは、ガゼルですわ!
あの時、あの瞬間、あなたがいらっしゃらなかったら、わたくしはこうして生きてはいられませんでしたもの!
ガゼルがいてくださったから………わたくしは……!」

ガゼルの胸に顔を伏せて、ディアーナは懸命に言い募る。
ガゼルは壊れ物を扱うかのように少女の背に手を触れ、そして意を決したようにその腕にぐっと力を込めて抱きしめた。

「―――俺、本気で上を目指すよ」



力が欲しい、とあれほど痛切に思ったことはない。

―――傍にいるための力ではなく、助けてやれる力が欲しい。



「今まで上を目指してたのはさ、地位とかがないと周りが許さないとか、胸を張ってお前の隣に立ちたいとか……そんな、都合とか見栄とかの問題だったんだよな。
でも……好きなだけじゃだめなんだってのがどういうことか、思い知ったから。
惚れた女になにもかもを背負い込ませて、悲嘆にくれるだけなんて、もうまっぴらだ」


本当に護りたいなら、支えて、力になってやれる存在にならなくては意味が無いのだ。



「だから……この誓約は、俺の決意の証なんだ。
俺の剣を捧げる相手は、生涯お前一人。忠誠も敬愛も、この命すらも、全部お前のもんだ」

ディアーナの細い腕をとり、その白い手を自らの頬に触れさせた。
浅黒い肌に、白い繊手が映えて見える。
その暖かい掌の温もりを刻み込むように目を閉じていたガゼルは、ゆっくりと目を開けると、まっすぐにディアーナの菫の瞳を覗き込んだ。

「―――待っててくれるか。絶対、お前の隣に相応しい男になって、迎えに行くから」


ディアーナは、その大きな瞳に、少し悔しげに涙をためた。

「―――ずるい、ですわっ。そんなこと言われて、嫌なんて言えるわけありませんのに」


同い年だったはずの少年が、急に大人びてみえる。
自分を抱きしめる腕の力強さ。いつのまにか少しだけ見上げなくてはいけなくなっていた視線の高さ。
―――ガゼルの羽化は、まさにこのときなのだろう。
ディアーナの瞳には、銀の翼を広げて空に羽ばたいていく少年の姿の幻が、はっきりと見える。
国という大地に縛られた自分はそれを追う事はできないけれど、彼が自ら舞い降りると言ってくれるなら。

「……待っていますわ。でも」

「……でも?」

問い返してきた少年の胸に顔をうずめて、ディアーナは駄々っ子のように縋りついた。

「二度と、ディアーナ姫なんて呼ばないでくださいまし。
―――約束、してくださいましたでしょう。わたくしの名前を、いつまでも呼んでくださるって」

「……うん、そうだったよな」

ディアーナの可愛いわがままに、ガゼルは微笑んだ。
そして、ディアーナの頬に優しく自分の手を当てると、優しくその名前を呼んだ。


「ディアーナ」


その呼びかけに応えて、こぼれそうな涙を瞳に湛えたまま、少女は桜が綻んだような笑みを浮かべる。
そっと寄せた頬に、ガゼルの唇が落ちる。次は涙を堪えた瞳に。それから額に。




一生を賭けた誓いを立てたその日。
女神の見守る神殿で、ステンドグラスを透けて届く陽の光を浴びながら、
想い合うふたりは、初めての口付けを交わした―――




end.

あとがき。