「主張」 

「医療制度改革を経済学者まかせでいいのか」

 来年4月からは介護保険の、再来年4月からは医療制度の大改革が施行されるにあたり、これらをどの様に変えていくかという政府方針の根幹となる財政制度審議会の諮問案がさる5月17日インターネット上でその全文が公開された。

 その骨子は翌18日に、箇条書きで新聞紙上で紹介されたが、第3面にそれも紙面の1/8程度の小さなスペースでの掲載であった。全文を手にしてまず目に付いたのが、その諮問案の二大柱が年金医療介護生活保護などの社会保障関係費と地方交付税の抑制であるのにその審議に、当事者たる医療関係者も自治体代表も誰一人参加させないいわば密室での審議会で、まさに当事者抜きの欠席裁判の形式をとっている事に驚いた。

 経済学者がやたら多くあとは、大企業の会長と新聞社論説委員が3〜4名づつで残りにジャーナリストと作家がひとりづつという構成で、医療制度や社会保障に大鉈をふるっているのである。

 医療制度を財政のバランスの視点でのみとらえていて、「まず削減ありき」の方針に迎合する意見を持つ「提灯持ち学者」を選んだとしか考えられない。「削る」という命題を導くのに当事者たる医療人や国民の代表を審議会に入れたら邪魔なのか。

 本来はそうではなく、社会保障制度や地方交付税などは、全国民で討論しあって修正しながら築き上げていくべき大問題であるはずである。そこには、「国民の将来的な生活や福祉や医療の水準を保つためには国家をあげて責任をもつべき」という基本的概念が欠如しているのではないだろうか。

 先進国で社会保障への国庫支出をへらしたのは日本だけで、国内総生産に占める割合でみてみると、イギリス12.4% ドイツ7.4% フランス6.1% スウェーデン8.1%に比し我が日本は先進国中最低でわずかに3.4% でしかない。欧米並みにするだけで、例えば、低所得者や障害者や高齢者の窓口負担を無料にして、老健施設を500箇所作りかつその入所費を無料にしてもおつりがくると試算されるのである。

  国民医療費が32兆円と騒いでいるが国庫負担はその内の8兆円のみであとは、国民の窓口負担と保険料で15兆円、事業主が6兆5千万、自治体が2兆4千万という構成になっているのである。土地代を除いた公共事業の建築費だけでも日本は36兆円国庫が出している(OECD1995年資料)のをみてもいかに国民の健康や福祉を政府が馬鹿にしているかがわかるというものだ。土地代のけた建築費だけでも社会保障費の4倍半もの公費を公共事業に当てている国など日本以外どこにもないのである。

 いまこそ医療人は国民の味方に立って政府と論じ合う時といえよう。
2004年8月号佐賀県保険医新聞「主張」より