「私の主張」 

「EPO訴訟」勝訴判決を聞いて」

   慢性腎不全につきものの腎性貧血を改善するためのエリスロポエチン(EPO)の注射に健保が適用になったのは1990年で、以後透析患者や透析予備軍の方々に広く使われてきたわけですが、その治療のエンドポイントをめぐって神奈川の先生が起こされたEPO訴訟の判決で、原告勝訴の判決があり、風前の灯火になりつつあった「医師の裁量権」を守り抜いたという点で、画期的判決であったと心より連帯のエールを送りたいと思います。

  このEPO訴訟の争点は、添付文書にある「改善目標値がヘモグロビン濃度で10/dl(ヘマトクリット値で30%)前後」とあるが、「前後」という言葉には、ヘモグロビン値が12g/dl(ヘマト値で36%)程度まで至ることが含まれていて、ヘモグロビン値が10g/dlを超えても12g/dl位になるまでは医師の判断で投与しても良いとして減額査定された請求額の全額を金利を含めて原告側に支払えと国保連合会に命じたものであります。(佐賀県でもそうですが)

  神奈川県では、透析患者のヘマトクリット値の平均が全国47都道府県中45位と低く、ヘマト値30%未満患者が62.5%もいるのは、ヘマト値が30%を超えるとEPOが査定され開業医が萎縮診療に追い込まれた結果だと裁判所が認めたためにこのような判決がおりたのではないでしょうか。

  我が佐賀県においては、以前から多くの先生方が指摘されているように、他のの県では減額査定されないものでも、薬剤量であれ病名であれ、「添付文書どうり」として事務レベルでバッサリ切ってくる事で「現場医師の裁量権は一切無し」というなさけないものでした。

  抗生物質量も「症例により適宜増量可」という文言があっても普通量以上分は減額査定されたり、「胃炎」では通るが「慢性胃炎」のままでは通らないとか、「高コレステロール血症」では通るが「高脂血症」では削られる(学会分類では、高コレステロール血症は、高脂血症の枝分類)などのため、いわゆる「レセプト病名」をつけざるを得ない破目になっているといえるのではないでしょうか。

  ともあれ、今回の医師の裁量権をめぐる裁判の結果をふまえて、現場の医師は、EBMに基づいた診療をしているという自負があれば患者のためにも自らの信念をつらぬくべきだし、おめおめと「萎縮診療」になりさがるべきではないと教えられた判例であったといえるのではないでしょうか。
  
佐賀県保険医新聞2003年6月号「主張」