「私の主張」 

「命の沙汰も金次第ですか?」

   第一線で医療に携わっている医師にとって、ここ数年特にこの一年の医療業界の激変に対し、実に嘆かわしくも又やり場の無い怒りが鬱積している。昨年10月からの高齢者の一割定率負担では、「在宅酸素療法」を行っている方の負担は一挙に10倍近くになり、薬代の一割負担も合わせれば1万円を軽く超えてしまうし、「寝たきり老人在宅総合」という制度で月2回往診をしていた方でも、月6000円を超えてしまう。

   もらう年金も月6万円前後の老人が多く、生活を切り詰めても足りず、治療を中断したいと申し出たり、デイケアを減らしたり又、必要な検査にも難色を示す高齢者がふえてきている。

   高齢者でなくても、小生の所のように、近隣に大学や大病院が多い地区での開業の場合、大病院にかかりながらの受診の大人の方が多くおられるが、「悪性腫瘍の薬代が一日で8千円〜1万3千円かかるんですが、飲まんといけんですかね」とか、「同じ薬効の他の薬剤に変えられないものでしょうか」という相談をしばしば受けることがある。

   自分自身が悪性疾患である事を高齢者以外の人はほとんどご承知なので高価でも、すこしでも延命が期待出来るならという気持ちでの服用だが、実態はかなり切実なものがあり、我が胸を刺される思いだ。特に胃、肺、乳、前立腺などの悪性疾患に高価な内服薬が処方されている事が多く、外来で相談されるが、なかには同じ薬剤で後続の薬が発売されている場合があるので、病院の先生と相談して当院でのフォロー時は、薬価が二分の一位になる後続薬を使わせてもらったりしている。

   この4月からは、3歳から70歳まで全国民が外来3割負担に統一されるし高齢者の介護保険料も2割近く値上げされるわけで、窓口負担の増大が社会問題になるでしょう。窓口負担が増えると、医療機関の収入が増えると勘違いしている患者さんもいて、その説明もしなくてはならず頭が痛くなります。又4月からは、大学病院に定額診療報酬制度がスタートしますが、入院が長引けば報酬が減る仕組みになっているので、重病患者を敬遠する所もあるのではと危惧されます。すばらしい日本人の叡智を結集して、「命の沙汰も金次第だ」とは決してならないようにしたいものです。
  
佐賀県保険医新聞2003年2月号「主張」より