「私の主張」 

「医療人は心を一つに」

   今のままの国の低医療費政策と、患者に高負担を押し付けていくという国策に盲従していけば、医業経営が今後壊滅的なものに成っていく事は必至であるが問題はそれだけではない。国民の医療費負担は徐々に、真綿で首をしめる如く増大し、国民の矛先は本当に向けられるべき国策にではなく、弱り果てたいわれなき医療機関に突き刺さってくるであろう。 

   年間30兆円といわれる国民医療費を保険料と患者の自己負担のみで賄えれば問題ないが実際はその3分の1が赤字のため国庫から25%の7.5兆円地方自治体から8%の2.4兆円が支出されているのが実情である。この国民医療費の国庫負担をどの程度にするかは国策であるが、20年前と比べると国庫負担は5%下げられて30%から25%になっていて、額にして1兆5千億の減額である。その分、国民負担が増えたわけで、国民は国に対して怒らなければならないのにその矛先を医師に向けている。あまつさえ、医療業界をバッシングすることで溜飲をさげているマスコミも、国が最低限なすべき医療福祉政策はいかなるものなのかを諸外国との比較においても探求すべきなのに日本での現状すら分析できていない。

   イギリスは、国民医療費のほぼ全額を税金で賄っているし、スウェーデンなども税金で賄っているので、税額が高いが、老後も病気になった時に出費が無いので、日本のように貯蓄にまわさないでも(日本の個人金融資産は1200兆円、有形資産残高にいたっては3114兆円)、貯金する必要もなく物を消費できるのである。

   国民一人あたりの医療費は、いままで何回も述べてきたように対GDP比でいえば世界で19番目でアメリカの半分ドイツの7割であり、実額でいってもスイスやアメリカの7割弱でフランスや北欧の国々と同額である。又日本のように公共事業費が医療を含む社会保障費の二倍になっている国は、どこにもないのである。先進6カ国(サミット参加国)全部の国の公共事業費の合計よりも日本一国の公共事業費が600億ドルも多いというのを国民が知ったら誰だって怒りにふるえるであろう。

   このように日本の医療は諸外国に比して安上がりになっているのは、医師の技術料の格安の故である。初診料、再診料、心エコー、総コレステロール検査料、心電図検査いづれをとってもアメリカの2割つまり8割引きの値段で、虫垂炎のオペ代にいたっては、ニューヨークの15%香港の25%なのである。このように技術料は格安なのに、薬代は諸外国の2倍からひどいのは6倍もするが、薬価という公定価格で守られているので、外資系の製薬会社も日本をカモにして進出を図っているし、又各種の医療機器も諸外国の2.5倍から4倍もするので、儲かる日本に売り込んでくるわけである。

   日本の医療機関もいいかげんお人よしのカモである事をやめて、赤字体質を脱却して一人立ちするためにも、抜本的な改革を国に進言していかないと国民医療が崩壊していくであろう。今まで、開業医,勤務医、教育機関の医師などで要求がバラバラで、診療報酬の事をとやかくいうのは「強欲な輩のハシタナイ要求」との認識だったかもしれないが、国民の医療福祉を守るためには先進国なみに国策として医療に浄財を大量そそぐべきだとして一致団結していくべき時なのではないだろうか。
国の政治政策を「国民のため」を第一義とした政策に根本的にやり直す時にきている。
日医ニュース平成14年10月5日号「会員の窓」掲載
 「日本医師会」水巻中正著 中央公論新社143P転載
2002年7月20日 佐賀県保険医新聞「主張」より