「私の本棚」 

「チベット死者の書」  

 河邑厚徳、林由香里著  NHK出版

   福岡市博物館で開催された「チベット展」の会場で求めた本書は、日本の仏教のルーツを伺い知る事ができた様で更に、「死」にたいしての考え方に大いなる感銘をうけましたので紹介します。

    この本は1960年代アメリカの若者の間で広くよまれ、現代のホスピス病棟で「死を待つ人々」の心のささえとなっているというのもうなずけます。人間が生まれて3万年の間で変わらない真実は「人は必ず死ぬ」という事実であり、いかなる民族にも「死」に対する思想と方法はあったのでしょうが、「科学の知」がなまじっか発達するにつれて、科学で証明できないことは迷信として無視してきました。その代償として、「死とは何か」の問いに答える事が出来なくなったのではないでしょうか。

    人間の死後の魂がたどる遍歴について詳しく説いてくれる経典がこの書といえます。死は終わりではなく一つのプロセスにすぎず、死後49日間のバルドの期間を経て再生すると説かれています。この49日間毎日、バルド.トドルと呼ばれる「チベット死者の書」を死後の道案内をする為に読み聞かせると言う。日本で花開いた大乗仏教の発生にチベット密教の考え方が流れているとの指摘にも驚かされました。この.バルト.トドルは死者が再び生まれ変わってしまう輪廻への道を避けて、解脱して涅槃の境地に達する道へ向かわせるための経典だというのです。更にチベット仏教では、生命の本質は「心」であり、その本体は「純粋な光」と説いています。浄土真宗でも、死の直後に光をみる事がすなわち阿弥陀如来(無量光仏)を見る事だと聞いた事がありますが、四拾九日法要といい、無量光といい驚くほど似ていると感じるのは私だけではないでしょう。

    病院で又往診先で「死」に遭遇する時、心のやすらぎをもたらしてくれる、医師必読の書ではないでしょうか。