私の本棚
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デボラ キャドバリー著 「メス化する自然」 集英社
科学は社会にどのように用いられるべきかを追求し続けているイギリスBBCのTV女性プロヂューサーの著者が欧米の数多くの科学者に接して助言を受けながら書き 上げた人類への警告の力作といえるでしょう。
7年前、フロリダのアポプカ湖のワニの激減の原因を調査していたフロリダ大学の調査 団が、捕獲したワニの生殖器の異常に気付いた事からノンフィクションは始まる。
湖水のサンプルを調べても格別な汚染は検出されなかったのに、何が原因でオスワニの80%に何らかの性器異常が生じているのか。ワニの精巣組織の変化と血液サンプルの分析からエストロジェン値の異常高値とテストステロン低値が判明した。その翌年エジ ンバラのアービン博士が人間の精子の数が激減している事にショックをうけてその原因追求を世界にむけて呼びかけた。熱や放射線以外にある種の化学物質もまた精巣の細胞に影響するらしいことが指摘されたが、犯人と断定するには不十分で、ここ50年間の 精子の激減の犯人さがしが様々な学者の研究の過程とともに綴られています。
精巣癌、停留精巣、尿道下裂、精子数減少などはすべてセルトリ細胞に関連していて、テストステロンを分泌するライジッヒ細胞をコントロールするのも、そのセルトリ細胞 である。故に、もし何かがセルトリ細胞の機能や数に影響を及ぼしているとしたら、ま さにその物質こそがこれらの異常を引き起こす元凶である。
この元凶さがしの物語が、研究者のエピソードとともに語られていく。まず、流産防止の合成エストロゲン(DES)から始まってDDT,PCB等に多くのページを割いて いる。パンドラの箱をあけたように、次々に新たな容疑者が続出してきた過程が面白く語られていて、おもわず引き付けられて読んでしまう名著です。
佐賀県保険医新聞 1998年10月号より
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