筑後川たより no13 (諫早湾のこと)   H14.1.30   

 九州はクジラが勢いよく尻尾を跳ね上げた形をしています。その内側の尾鰭が島原半

島だとすると、その尾鰭の付け根に諫早湾が在ります。クジラの背中の真ん中辺りから

天草島に向って突き出た三角半島から、北半分が諫早湾の在る有明海、南半分が水俣湾

の在る八代海です。

 諫早湾も4年前に締め切られるまでは、干潮時には広々とした干潟の現れる処でし

た。今はもう見る影もありません。

 昨年の秋、シンポジウムに参加するため二度諫早へ行きましたが、有明海に沿って久

留米へ帰る途中、天然記念物のシチメンソウの紅葉を見るために佐賀県の東与賀町の海

岸に寄り道をしました。

 シチメンソウは有明海周辺の限られた海辺にしか生えない植物で、秋には美しく紅葉

します。私は毎年秋になるとこの海岸へ来るのを楽しみにしていたのです。(諫早湾に

も締め切り前はたくさん自生していたそうですが・・・)

 で、それを見ようと堤防を下りた途端、ン、と立ち止まってしまいました。静かすぎ

るのです。いつもならプチプチ、プツプツ、ブチブチと二枚貝やカニなど潟の中に住む

沢山の生き物たちの発する音がうるさい程に満ちみちていましたのに、いくら耳を澄ま

せても何にも聞こえて来ません。

 あわてて目を凝らしましたが広々とした干潟の上にあんなに沢山いたカニやトビハゼ

やムツゴロウやヤドカリやミナ貝の姿が全く見当たりません。それらが縦横無尽に動き

回って付けた跡も無い。

 のっぺりとした干潟のうえにカニの作った砂玉だけは有りますから、少しは生き残っ

たものも居るのでしょう。しかしあの騒々しい程の生き物たちの生命の音はいくら待っ

ても聞こえて来ませんでした。

 涙が出そうなくらいシンと静まりかえった干潟が、人間社会の将来を暗示しているよ

うで背筋が寒くなりました。正に“沈黙の秋”でした。

 昨年まではまだ気が付かなかったけれど、あの生命の音はずっと以前から確実に減り

続けていたのでしょう、そして諫早湾の締め切りがそれにトドメを差したのです。

 1960年代、レイチェル.カーソンが「沈黙の春」を著わし、農薬の多用に警鐘を

鳴らしてくれましたけれどその甲斐も無く、とうとう有明海には現実に“沈黙の秋”が

来てしまったのです。

 10年先か20年先か分かりませんが、ふと気が付けば結婚してもこどもの産めない

男女ばかりで子供の姿は無く、みんな自分たちの老後のためにクローン人間を造ろうと

やっきになっているという社会になっているかもしれません。だれも自分のことしか頭

に無いのですから。

 農薬や焼却灰に含まれるダイオキシンなど環境ホルモンの影響で、筑後川の鯉が雌化

しているという報道が有ったのはもう4―5年も前でした、その後、若者の精子の減少

も明らかになりましたし、不妊症の原因の一つである子宮内膜症も増加しているのです

から、けっして取り越し苦労ではないと思います。

 有明海には筑後川をはじめ沢山の河川が流れ込んでいますが、そこには各家庭の雑排

水の他にも、農地や流域の市町村のごみ最終処分場や下水処理場、山間の産廃処分場な

どからダイオキシンなどの化学物質が永年垂れ流されてきました。(つい数年前まで何

の規制もなかったのですから当然です。)

 考えてみれば、有明海は天然の浄化装置である広大な干潟を有する巨大な下水処理場

だったのです。

他にも原因は沢山有りますが、最終的に諫早湾を締め切ってその干潟を潰し、やっと

保っていた浄化能力をパンクさせてしまった。それで有明海に生き物が住めなくなって

しまった、という事でしょう。

 知らぬ事とはいえ、自然に対して私達はひどい事をしてきたものです。

どんなに困難であろうとも、子孫につけを残さぬ為にこれから一つひとつ、その原因を

取り除き自然を元にもどす努力をしなくてはなりません。

 実はいま、久留米市では水源地に焼却灰などの最終処分場が着工しました。

予定地は大断層の走る処で、とても安全な施設など造れる処ではありません。

 ここからの排水はとうぜん筑後川を経て有明海に流れ込むばかりでなく、福岡市、福

岡県南部、佐賀県東部の300万人の水道水さえ汚染しますから、まさに新しく汚染源

を造るようなものです。

 他に5ヶ所の候補地も有りますから、水源地に造ることの危険を察知した地元の人達

は14年も前から反対運動を続けていますが、公共事業の倣いで見直される事無く今日

に至りました。しかし、まだ間に合います。

 予定地は絶滅が危惧されるカビゴケや冬虫夏草など20の稀少種が生息し、ホタルが

大量に自然発生する自然の宝庫でもあります。

新たな汚染源を造らない為にぜひ皆さまのお力添えをお願いします。

 みなさんの飲まれる水に何が起ろうとしているのか、

寺尾谷をぜひ見学にいらして下さい。喜んでご案内いたします。

“見物”でも大歓迎。寺尾谷がどんな処か、何が起きているのか、ぜひ自分の目で確か

めて頂きたいのです。

 工事があるのは月―金曜日の朝9時―夕方4時半頃まで、土・日は休み。

 意外に分かり難い処なので、おいでになる時は前もって福田までお電話下さい。詳し

くご説明いたします。

 留守の時は帰りしだいこちらから掛け直させて頂きますので、FAXか留守録にお名

前と電話番号をお願いします。

      連絡先:830―0062 

         久留米市荒木町白口374―3

         筑後川の水源を守る会 

         福田万里子

         TEL・FAX(0942)26―8353