少しの勇気


静かな夜だった。
さっきまであんなにうるさかった風の音が気づかない間に聞こえなくなっていた。
ふと窓の外を見やったランディはいつのまにか雪が降り始めていたことに気が付いた。
「聖地で雪が降るなんて珍しいな・・・・・。」
誰に言うでもなくそっと呟く。
クリスマスというこの日聖地ではパーティーが開かれることになっている。
そこで俺は初めて逢った時から惹かれている可憐な少女アンジェリークに
俺の全ての想いを伝えるという一つの決心をした。
「アンジェリーク・・・・。」
ランディは想いの全てを込めるように愛しい彼女の名を口にした。
そしてギュッと拳を堅く握り締めてランディは部屋を後にした。

外は雪が降っているだけあってかなり冷え込んでいる。
ランディはふと立ち止まって空を見上げた。
白くてふわっとした雪が静かに俺の顔に静かに舞い落ちてきた。
「大丈夫、きっと上手くいくわ。だから頑張って・・・・。」
何処からともなくそんな声が聞こえてきた。

それは決して見ることは出来ない小さな小さな雪の精。
聖なる夜に降る雪は雪の精からのささやかなプレゼント。
この聖なる日にあなたの想いが伝わりますように・・・・

「今のは?気のせい・・・・かな?。」辺りを見回してみても声の主の姿は見えない。
少しジッとしていたけれどその声が聞こえることはもうなかった。
「まぁいいか。それよりアンジェリーク君は今ごろ何をしているのかな?
きっと準備に大忙しだろうね。」
そう言いながら彼女の姿を想像するだけで自然と笑みが零れる。

噴水の側のベンチに静かに座って時計台を見上げた。
まだパーティーの時間には間があるようだ。
「ふぅ・・・・」静かに溜息を漏らす。
昨日オスカー様に俺の決心を話した時に言われたことを思い出してみる。

冬だというのに柔らかく暖かい光が差し込んでくるオスカー様の執務室。
そこで俺は明日のパーティーでアンジェリークに全ての想いを告げようと決心した
事とでも少しの不安があることをオスカー様に話した。
すると俺の言葉を今までずっと黙ったまま聞いていたオスカー様がふいに俺に呼びかけた。
「なぁランディ。」
そう俺に向かって言ったオスカー様の顔は優しく微笑んでいた。
「どうしたのですか?オスカー様。」
何を言われるのかと思って少しだけドキッとしたけど
その笑顔を見て安心した俺がそう答えるとオスカー様はまたニコリと笑って
「好きな相手に想いを伝える事は難しいことだ。
それは素直になれなかったり上手くいかなかったりって事を思ってしまうからだ。」
俺はその言葉を聞いて
「え??オスカー様でもそう思うんですか?。」
その問いに苦笑いを浮かべて
「俺だってそう思うことはあるんだぜ?。」と言う。
そして言葉を続ける
「お前はアンジェリークが本気で好きなんだろう?
だったら何を迷うことがある?
思いや気持ちっていうのはな言葉にすることで力を持つ。
そしてそのお前の気持ちが深ければ深いほどその力も強くなるんだ。
だから彼女に対する想いが本物なら勇気を出して言ってみろ。」
そう言って俺を勇気付けてくれたオスカー様の顔をとても穏やかでカッコイイと思った。

また俺は静かに溜息をつくと
「そうだよな、オスカー様の言う通りだ。」
ふと時計を見るとパーティーの時間が押し迫ってきていた。
「思いや気持ちは言葉にすれば力を持つ・・・・か。」
そう呟いた俺にはもう迷いや不安な気持ちはすっかり消え去っていた。

会場である宮殿の大広間へ行くとすでに自分以外の守護聖様や関係者が揃っていた。
アンジェリークを探すべく視線を走らせると一際眩しい所に視線が吸い込まれる。
その輝ける場所に居たのは・・・・そうアンジェリークその人だった。
いつも下ろしている髪を綺麗に結い上げて可愛らしい耳には
小さなピアスが微かに揺れている。
そして少しだけ露になった胸元にはピアスとお揃いの小さな石がついたネックレス。
淡いピンク色のロングのドレスとアクセサリーが
アンジェリークの肌の白さと可憐さをより一層引き立てている。
ランディにとってアンジェリークは他の誰よりも可憐で誰よりも輝いて見えた。
「本当に君は綺麗になったよね。」
彼女に目を奪われながらそんな独り言を呟いた。

ふとアンジェリークから視線を外すとオスカー様と視線がぶつかった。
ランディと目が合うとオスカーはニコリと微笑み
「頑張れ。」と一言だけ声を出さずに言った。
それにランディは力強く頷くとオスカーは彼を励ますように頷き返した。

ランディは他の守護聖と暫く談笑したあと愛しいアンジェリークの姿をす。
でも探すまでもなくランディの目は自然と彼女に引き寄せられていた。
少しタイトなドレスに身を包むアンジェリークのしなやかな肢体に暫し見とれる。
すると突然彼女がランディの方に振り返った。
柔らかな後れ毛がふわっと揺れ動く、トクン・・・・心臓が高ぶる。
その瞬間まるで時が止まったと思った。


アンジェリークはランディの方へ振り返ると少し頬を染めながら優しい微笑零した。
そうしてレイチェルに何かそっと呟く。
するとレイチェルはアンジェリークにニコッと笑って
頑張るのよとでも言うように軽く肩をポンと叩いた。
ランディはそんな彼女たちをただ静かに見ていた。

レイチェルに何事かを伝えたアンジェリークが真っ直ぐランディの元へと歩みより
最高の笑みを浮かべながら「ランディ様こんばんは。」と言った。
そんな可憐な微笑を浮かべる愛しい少女に見とれていると彼女が不思議そうな顔で
「ランディ様どうなさったんです?。」
というとランディはハッとしたように
「ご、ごめん。君があまりにも綺麗だったからその・・・・つい見とれちゃったよ。」
と少し照れながら言うとアンジェリークはほんのりと頬を染めて嬉しそうに微笑むと
「ありがとうございますランディ様。ランディ様もとっても素敵ですよ?。」と言う。
「ありがとうアンジェリーク。ねぇ少しだけ俺に時間をくれないかな?。」
「え?良いですけどどうしたんですか?。」
不思議そうな表情をする少女にランディは
少し黙ったあと「どうしても君に伝えたいことがあるんだ。」と話した。
ランディの真剣な表情を見てコクリと頷くアンジェリーク。
そんな彼女の手をそっと握ると賑やかな広間を抜けてバルコニーへと出た。

バルコニーとは言っても外とはガラスで仕切られている。
それでもやはり先ほどまで居た広間よりは冷たい空気が張り詰めていた。
「ごめんアンジェリーク寒いだろ?これ着てるといいよ。」
と言いながらそっとアンジェリークに上着をかけてやった。
するとアンジェリークは首を横に振ると
「大丈夫ですよランディ様。
何故だか分からないけどとっても暖かい感じがするんです。」
と微笑みながら言った。
「君って本当に優しいんだね。初めて逢った時からずっと・・・・ずっと変ってない。」
アンジェリークはただ可憐な笑みを浮かべたままランディの言う事を黙って聞いている。
まるでこれからランディが告げることを知っているかのように。

ランディは大きく息を吸うとほんの少しの勇気を振り絞って
アンジェリークの方へと向き直りそっと両手を彼女の肩におくと
今まで自分が伝えたかった事をただ一言だけ伝えた。

「アンジェリーク、君が誰よりも大好きだよ。」

この言葉に自分の想いを全て注ぎ込んだ。
他に言う事なんてない。
ただ下手な言葉を言うよりもこれだけの方が一番良いとランディには思えた。
ランディに見つめられながらそう告げられたアンジェリークはほんのりと頬を染めると

「私も・・・・私もずっとランディ様の事大好きでした。」

彼女もまたランディと同じように彼をずっとずっと好きだったのだ。
これは夢?それとも現実?
あまりの嬉しさに戸惑うランディを見てアンジェリークは小さく「クスッ」と
笑うとそっとランディに抱きついた。
「ランディ様大好き・・・・。」
そんな彼女を見てランディは真っ赤になりながらもそっと愛しい彼女を抱きしめた。
もう絶対に離さない離せない・・・・
思う気持ちが強いと先のことが気になってしまうけれど今自分に出来るのは
「今」を大切にすることそして「今の君」を好きでいる事。
愛するアンジェリークを抱きしめながらそう思う。

ねぇオスカー様。
想いを伝えるって事は難しいけど少しの勇気を出してみれば想いはきっと通じるんだね。
あなたの言う事が今はっきりとわかりました。
伝えることで広がっていくことって本当にたくさんあるんですねオスカー様・・・・

外はまだ雪がちらついている。
そしてまた聖なる夜にしか現れない小さな小さな雪の精が
二人を祝福するかのように囁く。
「ずっとずっとお幸せに。」ってね。