約束



もし…こんなことを言ったら、君は軽蔑するかな…。
あの旅の終わり、虚空の城で君と引き離されたとき。
そのときの俺は…君のことしか頭になかったんだよ。
仲間のことも、宇宙のことも…他のことを考える余裕なんてどこにもなくて。
ただただ君のことだけ。息もつけぬほどに、君のことだけ。


ねぇ…こんなことを言ったら、貴方は私を嫌いになるかしら。
あの旅の終わり、虚空の城で貴方と引き離されたとき。
そのときの私が考えたのは、貴方のことだけ。
新宇宙の女王、が聞いて呆れる。そこにいたのはただの少女。
貴方のことだけがこの胸を占めていたの。




いまでも思い出すよ。あのパーティーの夜。
ダンスを申し込んだ俺に、君は笑顔で応じてくれた。
胸の鼓動が、今にも君に聞こえるんじゃないかとドキドキしながら、
君の手と、君の腰に手をまわすと、その細さに、吃驚したんだ。
こんなに細い躯で、あんな旅を乗り越えてきたのか…って。
君は俺が護る。その想いを別れの刹那にまで心に刻み、腕に力を込める。


忘れない。貴方と踊った、あのパーティーの夜。
踊ろうと言った貴方は、顔を紅く染めて照れくさそうで。だけど真剣な眼差しで。
そっと手と腰を支える貴方の腕に、暴れる胸の鼓動を必死に押さえつけた。
この腕に…私は護られてきた。いつも。どんなときも。
私が気づかないところでも、いつも貴方は護ってくれていた。
だから、どんな旅も辛くなかった。




はっきり言って、自信なんてなかった。だから、賭けだった。
もし、君がほんの少しだけでも俺を一人の男として見てくれてるなら、と。
勇気を振り絞って、パーティを抜け出そう、と持ちかけた。
刻一刻と別れが近づく。明日の別れが否応なく俺を急き立てる。
初めて逢った頃から変わらない、まっすぐな瞳で俺を見つめる君。
吸い込まれそうなほど深い君の瞳から視線を逸らす俺。


貴方に外へと誘われた時、私の心にあふれた嬉しさを、きっと貴方は知らない。
いつも、妹のようにしか見られていないと想っていたから。
話せば話すほど、明日の別れが突きつけられる。
一瞬たりとも目を離したくない。この瞳に焼き付けるように貴方を見つめる。
『もっと楽しい話をしようか』と、女王試験のこと、新宇宙のこと、と
指折り数えていた貴方が、ふと口を閉ざし、私へと眼差しを向ける。



「君を……君を初めて、大切だと想ったときのこと……」


そして、互いの瞳を見つめてしまったら、もう止まれない。
想いはあふれて、互いに捕らえ、捕らわれる。


「できることなら…違った形で逢いたかった。
離したくない…!君が好きなんだ…!」



堰を切って、迸ってしまう俺の想い。
最初に出逢ったときには妹のように大切だと……そう思っていた。
気づかぬうちに、想いは膨らんで、自分の気持ちに気づいた時には、
もう君は手の届かない存在(ひと)になっていた。
君の白い手は、今確かに俺の手の中にあるのに。


貴方の切ない眼差しに、心が締め付けられる。
苦しげに、そして愛しげに告げられた言葉。それは私を甘く縛る。
貴方の傍にいたい――そう言えたら楽だけど。言えるわけがなかった。
だって、新宇宙には私の半身が、そして大切な親友が、今も私の帰りを待っている。
貴方の手は、今確かに私たちを繋いでいるのに。



「また会えるって信じてる…。俺はずっと、そう信じてるから…」



それが、俺の誓い。君との約束。
別離の言葉は、俺たちにはいらない。


それが、私の誓い。貴方との約束。
再び逢える。疑う必要もない。



約束の証に、口付けを交わして。
最初は手の甲に。次は頬に。そして唇に。



そして君は君の宇宙へ帰っていった。君の在るべき場所へ。
俺の心に、抜けない楔を打ち込んで。
俺の躯に、消えない炎を灯して。
この胸の炎は、風に煽られ燃えさかり、衰えることを知らない。


そして私は新宇宙へと戻る。私を待つ、友の元へ。
忘れられない思い出を、この心に刻み込んで。
解けない鎖を、この躯に絡みつけて。
この胸に刻まれた想いは、悠久の時にも風化することを知らない。




あれからどれだけの時がたったのだろう。
時の流れの違うこの地では、もとより己の時間感覚は意味を持たない。
聖地と、新宇宙。
次元すら隔てた地で、時の流れが同じかどうか、それすら確信を持てなくて。




あの闘いを経て。
俺は帯剣をするようになり、稽古も以前より力を入れるようになった。
大切な人を、護り通せるだけの力が欲しい。
ただ相手を倒すための力ではなく、大切なものを護れる力を。


あの旅を経て。
私は宇宙を統べる者としての見方が少し変わった。
育て導くものから、愛し慈しむものへと。
愛しい者を…護りたい、と。



とても大切な、護るべき地。
だけど…本当に大切な人が、ここにはいない。

会いたい。

逢いたい。

風が吹き抜けるようなその笑顔を。
聞く者の心を解きほぐすようなその声を。
すべてを映し出すようなその澄んだ瞳を。


ただ、感じたくて。




願いが聞き届けられたのだろうか。
たった一つの知らせが、嬉しさに心をざわめかせた。

『王立芸術院の式典に伴い、新宇宙の女王を聖地へ招待する』

逢える。また逢える。
時の遅さに苛立ちながら、その日を待ち続けた。

そして、はやる心を抑えながら、次元回廊へと向かう。

虹色の揺らぎを見せる回廊から、待ちこがれた人の姿が見える。




――君は、少し髪が伸びた?
可愛らしかった仕草に、艶っぽさが加わったようだ。
海のような深い瞳は相変わらず暖かくて。
俺の心に沸き上がる愛しさは変わらない。
…いや、以前より強く俺を急き立てる。


――貴方は、少し背が伸びた?
少年らしさはそのままに、精悍さが姿を見せたみたい。
空のように澄んだ瞳は相変わらず優しげで。
私の心に沸き上がる愛しさは変わらない。
…いいえ、以前より激しく私を突き動かす。



視線が合った途端、駆けだしていた。


周りの視線もどうでもいい。
求めるのはたった一つの存在。

そこに在るのが奇跡のように。
自分に輝きを与えてくれる存在。

互いの腕が、お互いを抱き留めた。



伝えたいことはたくさんあったのに、今は言葉にならない。
互いのぬくもりを腕の中に感じて、たった一言を口の端にのせる。


思いの丈をこの一言に。


「――逢いたかった…」


fin.


今回のリクエストは、天空EDからOVAでの再会までの、交互のモノローグ形式です。
天空のEDのほうは、『』で括ってあるところは殆どそのまま引用しました。
OVAのあたりになるとアレンジどころじゃないですが(笑)
けっこー風様のモノローグって書きやすい、というのは今回新発見でした(笑)。
特に天空だと、モノローグにもってこいの舞台ですね!
天空のEDはやっぱり切ないです〜。描写しきれないのが悔しいっ!