忘れられない一日



事の発端は、育成のためにルヴァ様の執務室を訪れたこと。
コンコンと扉をノックすると、「どうぞ〜」と声が返る。

「こんにちわ、ルヴァ様」

「あ〜。ようこそ〜」

扉を開いたその先には、ルヴァ様と、もう一人。

「よぉ、お嬢ちゃん。元気そうだな」

オスカー様がいたのだった。
別にそれ自体はまったく珍しいことでもないのだけど。


「こんにちわ、オスカー様」

「ん?あ…ああ」

どうにも歯切れの悪いオスカー様。こんなのは初めて見る。

「…?オスカー様?どうかなさったんですか?」

「いや、なんでもない。…すまないな。お嬢ちゃん。
せっかく会えたのだから甘く語り合いたい所だが…
少し…忙しくてな。俺はここで失礼する」

「あ〜オスカー、またいつでもいらしてください〜。
お貸しした本を返すのはいつでもいいですからね〜」

「ああ、助かったよ。それじゃあな、ルヴァ」


本を片手に、オスカー様はそそくさとルヴァ様の執務室を後にした。
…その本の表紙がピンクに花柄という、
めちゃくちゃ乙女チックな色と柄に、思い切り違和感を感じた。


それにしても…オスカー様の様子がおかしい。


なにがどうと言う訳じゃないのだけれど。
ひとことで言うとよそよそしかったというか。


「…ルヴァ様。オスカー様は何の本を借りにいらしてたのですか?」

「あ〜…すみません。言えないのですよ。
いえ…怪しげな本というわけではないのですが…
ただ…本人から『口外するな』と口止めされてまして〜」

????
本を借りに来ただけで口止め?
…余計に訳が分からなくなったわ。

困惑した表情を浮かべた私に、ルヴァ様が慌ててフォローを入れる。

「あ〜、貴女がお気になさるような事はないのですからね。
いえ、その…これ以上はお話しできないのですが…」

とにかく今は話せない事情があるのだろう。
これ以上この件につっこんでもルヴァ様を困らせるだけだ、と、
私は笑って頷いてこの話題を終わらせた。



しかし。

話題を終わらせたとはいえ、一度気になってしまったものはしょうがない。

翌日、私はそれとなくみなさんに聞き込みをしてみることにした。



「オスカーの様子がおかしいと?…いや、私は知らぬ。
私的なことまでは関与せぬのでな」

「…あの者のやることに興味を持ってるように見えるか…?」

「ん〜…そういえば、最近は日の曜日に行っても、
剣の稽古をつけてもらえないことが増えたんだよなぁ…」

「そうですね…。そういえば、わざわざ私のところまで、
お茶の淹れ方を教わりにいらしたことがありましたね…」

「こないだね、僕の育ててる植物たちの中から、
色々分けて欲しいって言ってきたことがあるよ。リストまで作って」

「…かんけーねーとは思うけどよ。最近俺んとこ来たことがあってよ。
あいつの私邸の厨房が、調子わりぃってんで、修理に行ったぜ」


最初こそ実のある話は聞けなかったけれど、
だんだんとオスカー様の様子について聞き取れだしてきた。

…なんとなく、一本の線になりそうな気がするのだけど。


私は、次の方の執務室を訪れた。


「…オスカーの様子についてだって?
はは〜ん…あいつのこと、気になってるんだ?」


ぎく。

いきなり図星をつかれて、頬が染まるのが自分でもわかった。

「…そ、それはこの際おいといてください」

「ふふ、まぁいいけどねー☆
で、オスカーのことだっけ?
教えて上げたいとこなんだけどねぇ…」

「…また、「口止めされてる」ですか?」

「きゃはは☆やだな、違うって。
…でもあいつ、口止めしてんのね?ルヴァに。
よーっぽどあんたに隠して進めたいんだねぇ」

そう言って笑うだけで、結局私は、何も教えてもらうことが出来なかった。
収穫といえば、去り際、一言だけ付け加えられた言葉だけ。

「教えたくないんじゃなくて、教えないほうがいいって思うからだよ。
あいつらしくないといえばあいつらしくないかも知れないけどさ。
…少しだけ、待っててあげなよ」


次の日の曜日のこと。

いつもなら、オスカー様がドアをノックして誘いに来る時間。
日の曜日は、いつも来てくれていた。
今日は…いつまでたってもドアは静かなまま。
昨日言われた言葉が、脳裏を過ぎった。

『少しだけ、待っててあげな』

少しだけ…待って…?

…………………………待っていられなかった。

もともと受け身は性分に合わない。

オスカー様に直接伺おう!

私はすっくと立ち上がり、扉へ向かって歩き出す。
ノブに手をかけ、勢いよく扉を開く。


ごつん☆


「…なんか今…妙な音がした…よーな気が…」

ドアの外に面した側をのぞき込むと、そこには額を押さえたオスカー様がいた。
数秒の沈黙の後、我に返って私は慌てた。

「オ…オスカー様!??い…いったいいつからそこに!?」

オスカー様はばつの悪そうな表情をして、目を逸らした。

「…いやまぁ……それより、お嬢ちゃんを誘いに来たんだが…どうだ?
今日はちょっと、連れていきたいところがあるんだが。
…お嬢ちゃんに見せたいものが……いや、なんというべきか…はは…」

最後には、笑って誤魔化されてしまったけど、
もちろん、オスカー様のお誘いを断るなんて馬鹿な真似はしなかった。




「…オスカー様のお屋敷に行くなんて、一言も言わなかったじゃないですか…」

半ば八つ当たりというか、恨みがましい台詞を呟きながら、
オスカー様のお屋敷のソファーで、そわそわと落ち着かない私がいた。
オスカー様はといえば、すっかり調子を取り戻されていて、
楽しそうに私を見ていた。

「緊張するか?お嬢ちゃん」

「き…緊張なんて…!」

…………しまくってるけど。
素直に認めるのも癪だった。


「……………で、なんですか?私に見せたいものって…」

このままじゃ分が悪い、と思った私は、話を元に戻す。
オスカー様は、照れたように頬を軽く掻くと、
一言「ちょっと待っててくれ」と言い置いて、部屋を出ていってしまった。
取り残された形になった私は、所在なげに再びソファーに座り直す。

「…なんなんだろう」


「待たせたな、お嬢ちゃん。こっちに来てもらえるか?」

しばらくして戻ってこられたオスカー様が、私を手招きする。
わけがわからないまま、私はオスカー様についていった。
不安ではあるけど、あのままずっと座り込んでるわけにもいかない。

廊下をしばらく行き、ある部屋の前でオスカー様が歩みを止める。
キッと音を立てて、扉が開かれた。

招き入れられたその部屋には、
テーブルクロスのかけられた簡素なテーブルが一つ。
テーブルを挟んで向かい合わせるように椅子が二つ。
テーブルの上には、ティーカップが2客と、ティーポット。
そして中央にちょこんと小さなケーキがのっている。
おそらく先ほど退出したときに灯したのであろう蝋燭の火が、
ケーキの上でゆらゆらと小さく踊っていた。

ケーキの形はどちらかといえばいびつで、
クリームやトッピングも少々アンバランスなところがある。
ふとオスカー様の手に視線を向ければ、その手には
注意して見なければ見落とす程の小さな切り傷や火傷の痕が見てとれる。



守護聖の皆様から聞いた話と、現状証拠。
ここから導き出された結論はただ一つ。

「…あの、もしかしてこれ…オスカー様が作られた…とか…」

オスカー様は笑って目を逸らしていたけれど、
観念したようにため息をひとつつくと、やっと私を正面から見てくれた。

「…誕生日おめでとう、俺のお嬢ちゃん」

…私の…誕生日?……………すっかり忘れてた。

「…そのために…?」

「お嬢ちゃんにとって特別な日は、俺にとっても特別だからな。
……菓子づくりなんぞ、したことがなかったんだが…。
特別な日に、特別なことをしても、バチはあたらんだろう?」

そう言って、オスカー様は私の頬に手を触れて、照れ笑いを浮かべた。

それから私はオスカー様になんて言ったのか…実は殆ど覚えてない。
がらにもなくちょっぴり涙ぐんでしまったことと、
オスカー様が困ったように笑って涙を指で拭ってくれたことだけ覚えている。


ちなみに、ケーキの味は…ちょっとだけ焦げてたけれど、
とても……とても美味しかった。


この日は、私にとって忘れられない日になった。



その後、ルヴァ様の執務室には、例の花柄の本が返された。
──題名は「女の子の強い味方♪誰にでも作れる、美味しいケーキの作り方入門」
……………………とまぁ、たしかにオスカー様が借りたのが知れたら、
からかいの種になること間違いなしの本だった。

ちゃんちゃん☆


はいっ!今まで書いてきた中で、一番こっぱずかしい創作と相成りました、
「忘れられない一日」をお送りしました!
…まじで恥ずかしいよぅ…。(今までのは恥ずかしくなかったのか、というツッコミはなしね♪)
お誕生日創作として書いたものですが、なにせとことんスランプな時のものですので、
オスカーがめちゃくちゃ別人だったり、展開がギャグだったり、おちまでギャグだったりするのは、
…大目にみてね♪(精進しろっつーの)