薔薇(そうび)



ロザリアが、その青年と逢ったのは、女王試験の行われる飛空都市。

女王になるべく訪れたはずのこの地で、
それ以外に心奪われることに、出会ってしまった。


その眼差しに吸い込まれそうだと感じたのも、
その言葉に心を高鳴らせたのも、
すべては、あの人だけ。


好きになんて、なってはいけないと、
何度自分に言い聞かせただろう。

それでも、自分の心を偽れるほど、器用な生き方はできない。


忘れることも、離れることも叶わぬ人。


そして行き場のない想いをかかえ、
苦しみに胸を苛まれる日々をただ過ごすしかない。




『凛とした気高さがよく似ている』
そういって、オスカーがロザリアに捧げた花は、白い薔薇。
部屋の中央に置かれたテーブルに飾られているその花を、
ロザリアは一輪手に取る。

「私は…それほど心が強くはありませんのに…」

ロザリアは、その花を手にしたまま、ふらりと外へと足を向けた。


今は、1人になりたい。

ロザリアは、森の湖へと足を運んだ。


湖のほとりで、1人座り込んで、ただ花を眺める。
時には香りをかいだり、くるりと回したり、
その雪のように白い指先で、白薔薇を弄ぶ。


「私…どうしたらよろしいの…?」


誰にともなく、そう呟いたとたん、人の気配を感じて振り向く。
そこには、今一番逢いたくない人の姿。
そして…いつでも一番逢いたい人。

「…オスカー様」


オスカーは、いつもと変わらない笑顔を浮かべて、ロザリアの元へと歩み寄る。

「…嬉しい偶然だな、お嬢ちゃん。
逢いたいと思っていたんだぜ」

ロザリアは視線を逸らすと、表情を曇らせ、俯いた。

「…私は…今、オスカー様に逢いたくはありませんでしたわ」

ロザリアの返答に、オスカーの手がぴくっと震える。
そしてロザリアの手に握られている薔薇の花を目に留めると、
オスカーは拳を握り締める。
「その花は…」

「…やはり、私には、白薔薇なんて荷が重いですわ」

ロザリアはそう呟くと、湖にその白薔薇を浮かべる。
漣に白薔薇が攫われていくのを、静かに見つめる。
白薔薇が波間に姿を消すと、ロザリアは立ち上がった。


無言で背を向けるロザリアに、オスカーは静かに呟いた。

「君は…たしかに白薔薇ではないと俺も思う。
だが…やはり君は薔薇だ」

その言葉にロザリアは振り向く。


「激しいほどに美しく咲き誇る…手折ることも躊躇うほどに…。
…愛しても…この手に望むことすら…叶わぬ程に…。
……君は…俺にとって…」

「…オスカー様?」

「……君は…蒼い薔薇だ…」


蒼い薔薇。

それは…幻の薔薇。
どんなに焦がれても。
決してその手に届かぬもの。


「…狡い…ですわ…!」
ロザリアは、瞳に大粒の涙を浮かべる。
そして、身を翻したかと思うと、湖へと足を踏み入れる。
ざぶざぶと足を進め、すぐに腰まで水に浸かる。

突然のロザリアの行動に、オスカーは慌てて止めに入る。

「…何をするんだロザリア!
この湖は見た目よりずっと深いんだぞ!」

オスカーに腕を掴まれ、漸く歩みを止めたロザリアは、
顔を背けたまま、声もなくその瞳から涙を流す。


「白薔薇のほうが…幾万倍もいいですわ…。
手に届かない存在になるのが蒼い薔薇だというのなら…、
私は…蒼い薔薇なんかに…なりたくない…!」

「ロザリア…。しかし君は…。
君ほど至高の存在に相応しい女性はいないのに…」


ロザリアはキッとオスカーを睨み付ける。

「どうしてお分かりにならないの!?
私は…貴方に『陛下』と呼ばれたくないんです!」

オスカーは驚愕に目を瞠る。

ロザリアはその瞳から落ちる涙を拭うことも忘れ、
オスカーの胸に縋りついて、声を荒げて言い募る。

「私は…貴方に『ロザリア』と呼んで欲しい…!
先程言ってくださったように…『君』と呼んでいて欲しいんです…!」


胸に痞えていたものを吐き出すように、
ロザリアはオスカーに想いをぶつける。
後から涙が溢れて止まらない。



オスカーはロザリアの細い肩を、強く抱き寄せた。

「…許してくれ…!」

突然抱きしめられ、今度はロザリアが驚きに目を瞠る番だった。

「俺は…君をこんなにも…!
言い訳をならべて、自分の心を偽るなんて、
もっとも許されない方法で君を傷つけた…!」


オスカーは、ロザリアの頬に手を当て、
自分の方を向かせると、その瞳を見つめ、言葉を紡いだ。


「俺は…誰よりも君を愛しく想っている。
この宇宙よりも、君の存在を必要としている。
叶うなら…君のこの先の時間を、俺と分かち合って欲しい…。
…これが、俺の嘘偽りない本当の心だ。
君は…俺の犯した罪を、許してくれるだろうか…?」

ロザリアは、そっとオスカーの背中に両手をまわす。
その表情には、晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。

「2度は…許しませんわよ?」



静かに寄せる湖の波の中、
二人は静かにその口唇を寄せ合った。

二人の傍には、白い薔薇が祝福するように波間に浮かんでいた。

fin.

と、言うわけで、オスカーの誕生日創作、しかもオスロザ一作目。
花束(ブーケ)シリーズ第3弾、ですかね。今回花束じゃないですけど。
テーマは白薔薇ではなく蒼い薔薇。自然界には存在しない花なんだそうです。
これを聞いたときから、ロザリア創作に使いたくて、今回お目見えした次第です。
でも最近スランプです。実はこの話も、自分ではちょっと納得できていない。
でも何処をどう直せばいいのかもわからない…。