失恋
いつから、私が貴方を見ていたのか。
きっと貴方は知らないはず。
――知らないから。だからよね。
ごめん、の一言ですべてを済ませられるのは。
ありがとう、だけど応えられない。
そんな簡単な言葉で済ませられるのは。
見かけるたびにドキドキしてて。
だけどそんな素振りを見せたくなくて、
いつも憎まれ口を叩いてたっけね。
私よりずっと年上なくせして、
時折見せるうぶな様子に、一人微笑ってたっけ。
初めて会ったころは、こんな気持ちは抱えていなかったのにね。
惚れた方の負けとはよく言ったもの。
――意味は、違うけど。
改まっての急な呼び出し。
不自然にそわそわした態度。
それとなく、あなたも気づいていたんじゃない?
好きだと、伝えた。
思いの丈をこめて。
暴走する心臓の手綱を、必死で取って。
用意してきた言葉もすっかり抜け落ちて、
頭の中が真っ白になりながら。
それでも、精一杯に。
ドロドロした感情を抱えていたくなくて。
すっきりしたくて伝えた言葉。
困ったような表情を浮かべていたのを、思い出せるわ。
だから、答えを聞く前に、私には結末が見えた。
貴方は、他の誰か――たとえばあの子――が好き?それなら、諦められる。
そんな対象と見られない?だったら、見てもらえるよう自分を磨く努力もできる。
だけど、そんな言葉はひとつもなくて。
今は女性とつき合う気は無いと言っただけ。
今のままがいいからと。
それはつまり。
自分はまだ縛られたくないと。
言葉は飾っても、そういうこと。
そんなこと言われたら…何も言えないじゃない。
物わかりのいい女になって、引き下がるしかないじゃない。
笑って、ごめんねと言うしかないじゃない。
マジになってる私が、まるで道化みたい。
私は、強かに生きる女だから。
振られる覚悟はしていたから、と。
気まずくしないで、と。
いつも通りに接して、と。
笑顔で貴方に言うことができる。
涙のひとつも流さずに。
想いの行き場は失ったまま。
――いいわ。
綺麗な女になってあげる。
魅力的な女になってあげる。
いつか、貴方が私を振ったことを後悔するくらい。
いつから、私が貴方を見ていたのか。
貴方は知らないはずだから。
私がひとり、部屋で涙を湛えたことを、貴方は知らない。
fin.
ちょっと短めですが、個人的にこれには思い入れがあります。
じつは出来云々じゃなくて、内容にね。