三度目の邂逅



――もしも今一度あなたに会えたなら、三度目の恋をするだろうか。




初恋は、まだ恋とも言えない淡い想い。


そのときの私たちは幼かった。

考えの足りない不用意な言葉で、私は彼の心の凝りに触れてしまった。
だけれど、彼はむしろ、己自身を責めていた。

他の人を傷つけてしまうかも知れないと、
自分自身に怯えていた心優しい一つ年下の少年。

そのときの私には、彼の身分も力も立場さえも関係なく、
ただ、彼の心を癒したいと思ったのだ。
私にとって、特別な能力の有無に関わらず貴方自身に変わりはないと、
ただそれだけを、なんとかして伝えたかったのだ。



奇しくも彼自身が生み出した水晶が、私たちの絆を結んだ。
勇気を持って差し伸べた手を、彼は嬉しそうに握り返してくれた。

歳不相応の立場に否応なく順応させられていた互いに、
心を許せる、同年代の友達が出来た瞬間だった。

同年代の子供の中で浮き立った存在だった私にとっても、
それはとても嬉しいことだった。


そのときの私たちは幼かった。

だからこそ、大人の建前も、心を偽る仮面も要らなかった。


たった半年間の、心休まる日々。
だけどその短い半年は、私の中で最も美しく、鮮やかな日々だった。

お互いにただひたすらに汚れを知らぬ眼差しのまま、
何が幸せなのかもわからないまま、
それでも幸せだと感じることの出来た、純粋な日々だった。


自分を飾らずに、穏やかで柔らかな情景を共有できた、
優しくて暖かい、大好きな少年。



――それが、私の初恋だった。





二度目の恋は、想いながらもすれ違い合った恋。


7年の時が何かを隔てたのかと、最初は考えた。

7年前の面影を留めながら、それを振り払うように、
己の正義に基づいて闘いに身を投じるあの人。


彼の生き様を……けして、素直に受け入れられたわけではないけれど。
彼が失った、大きすぎる支えを思うと、否定することもできなかった。


きれい事だと、あなたは言う。
本土の人間の考え方だと、あなたは言う。

けれど、それでも。
それでも私は理想を形にする道を自ら閉ざしたくはなかった。
それが、あなたと相容れぬ事になろうとも。



彼と私との理想がかけ離れていたとは思わない。
ただ、それを掴むために選んだ方法が違っただけ。

ときに諭し諭され、ときに反発しながら、
互いに同じ道を歩むことは出来ずに、己の道を行った。



7年前の友誼を忘れたわけではなかった。
けれど、それでも譲れないものもあった。


――変わらなかったのは、あなたが大切という、その想いだけ……。


そして、朧気だった初恋はいつしか愛へと昇華した。



彼は本土に帰れと私に言い続けた。
昔の想い出に仮面を付けるように、頑なに。
でも何故かその言葉の影に、彼の不器用な優しさが見えた気がした。


結果として、それは間違いでなかったことを知るのだけれど、
――――その代償はけして小さなものではなかった。



すべてが終わったあと、彼は闘い続けることを選んだ。
己の道を貫くために。彼自身の理想を追い求めるために。

求めているこの失われた地の未来は同じ筈なのに、
道が交わらぬ、あなたの背を見送った。


振り返らぬあなたの後ろ姿。私の心は切なく軋む。

…寂しい?…………ええ、寂しいわ。

…だけど。


私は、水晶を握りしめる。


ああ、あなたは生きている。
ああ、あなたはどこかで自分の道を突き進んでいる。

それが分かるだけで、私にはもう充分。



あなたはあなたの望む道を歩んでいい。
ただ、忘れないでいてほしい。

あなたにも、「帰る場所」があることを。
あなたの帰りを心待ちにしている者がいることを。

忘れないでさえいてくれたのならば、
私は幾年、幾十年でもあなただけを待っていられる。
この身が老いさらばえても、あなただけを。



ただ…望むことだけでも叶うなら、
いつかあなたがその羽根を休めるとき、私が梢になれたらいい。
あなたが傷ついた身体を癒すとき、私が大きく包み込む大地になれたらいい。
微睡みを与える柔らかな日差しであれたらいい。
疲れた身体の渇きを潤す清水であれたらいい。




不器用なまでに、突き進むことしか知らぬ、純粋なあなた。

その胸の内には、この大地の人々への思いが溢れている、優しいあなた。

眩しいほどの激しさを秘めた、――――愛しい、あなた。




今の想いが叶わぬならば、それでもいい。

傍にいることを望まないと言えば嘘になる。

だけど、私はあなたを喪失する衝撃を知ってしまった。

あなたの水晶が音もなく粒子に還る瞬間を。
この手の中で、為すすべもなく。
砂が風に散るように、小さな灯火が強い風に吹き消されるように、
貴方の命が消えていこうとするその瞬間を。

どんなに離れていようとも、その時の嘆きに比べれば小さなもの。

あなたの命を繋ぎ止めるための代償は、あまりに大きすぎたけれど。
だからこそ、私はこの幸せを軽視してはいけない。

愛しき人が生きている。
それがどんなに幸せなことか。





初恋は、まだ恋とも言えない淡い想い。

二度目の恋は、想いながらもすれ違い合った恋。



わたしは、あなたの水晶だけを長い旅の道連れに、
あなたと邂逅する日を…――あなたと私の道が交わる時を待っていましょう。


いつ来るとも知れぬ…ともすれば、永劫に来ないかも知れぬその日を――



fin.

放送終了してから書き始めてしまったスクライド創作です(笑)
ちくしょー、タイミングはずしているのに書きたくてしょーがないぞ!(笑)
とゆーわけで、いきなし劉鳳×水守の創作です。
とりあえずまずは最終回(つーか25話?)の二人を補完したくて。
この話、いつか劉鳳サイドも書きたいです。…書けるかな?