ランディ君の災難
ランディ君の災難。
それはある水の曜日の事。
「あ、あのさ…アンジェ、…リーク…」
「はい?」
「つ、次の日の曜日は空いてる?あの、もしあいてたら…、良かったらでいいんだけど…。」
「ふふ…、日の曜日…あいてますよ。いいですね、一緒に出かけましょうか」
「え?…あ、ありがとう!!」
誘ったんだか誘われたんだか…少年の名は風の守護聖ランディ、お相手はもちろんアンジェリーク。
―つまり、ランディは愛しの少女と日曜日の約束を、数多いライバルを跳ね除けて獲得できたのだ!
これが喜ばずにいられようか!!
あの、控えめな笑顔が可愛い少女と日の曜日に二人っきり!これで嬉しがらない男がいるなら男じゃない!!
「早く日の曜日にならないかなぁ…」
やはり庭園がデートコースとして無難だろうか、…いやいや森の湖という手も…
「なぁににやにやしてるんだよ、ランディーやろー!」
この、人の喜びに水を差す罵声の主は…
「ゼフェル、いたのか?!」
「いたのかじゃねーよ、庭園に俺がいて何がわりーんだ?」
は、と気付けば確かにここは庭園。少女の元から帰る途中、かなり脳みそがワープしていたらしい。
「とうとうボケたのかよ、にやついて歩いて来たのはそういうわけか?」
いつもならここで口論合戦の始まりなんだが…
「ふふん、ゼフェル。おまえには俺の気持ちなんて分からないだろーな!」
「あぁ?」
優越感たっぷりの笑みで答えられてはそりゃゼフェル君でなくともカチンと来る。
「…おまえのこったからどーせくだらねーんだろ?」
くだらなくはない。あの優しい少女との日の曜日の約束だ!
「アンジェリークと、デートの約束をしてきたんだ」
「……あんだと…?」
一段と、ゼフェルの声が低くなり目が据わる。
みんな大好きアンジェリーク、それはゼフェル君も例外ではない。
―それを大っ嫌いな奴に自慢されて黙ってられるか?!
「…はっ、それがどーしたよ。俺なんかこの前屋敷に招待してやったんだぜ。」
もちろん、少女に対する全員の行為は把握して、の言葉だ。
彼の情報網によればランディはこれが初めてのデート(笑)。
「な、何?!」
「おめーは要領悪くとろとろやってるからなぁ、どーせ今回初めて出かけるんだろ?
アンジェリークも『デート』、なんて思ってねえんじゃねえ?」
「うっっ…」
女王試験が始まってから、もう一ヶ月。
まじめなランディは平日に尋ねるのが悪い気がして、毎回日の曜に誘ってたのだか必ず先約があり、少女と出かけることは出来なかった。だからこそ、あの喜び様なのだ。
「うるさいっ!じゃあ俺も私邸に誘う!」
「なにぃっ?!」
―やはり言い合いが始まるか…?!
「あっれー?!ご両人、どうしたの険悪な雰囲気して!」
その時飛んできたのはやたらと軽い声。―夢の守護聖、オリヴィエだ。
「うるせーな、オカマやろー。あっち行ってろよ!」
「まっ!……ゼフェル〜…?あんたとは一度話つけなきゃいけないみたいだねぇ!!
…ランディ。ちょっとこの子借りるよ…。」
「あ、はい。」
「てめー!見捨てる気…っ」
ドスッ!
―ゼフェルのみぞおちに綺麗にオリヴィエの拳が入った!!
「んーランディ、やっぱあんたっていい子ね!
…ああそうそう、ジュリアスが呼んでたから、早く行ったほうがいいんじゃない?」
ぐったり白目を剥いたゼフェルを軽々と持ち上げて、いつもの通り、気楽なフェイス。
「あ、は、はいぃぃぃ!!」
―やっぱりこの人には逆らっちゃいけない。
そんな教訓をくれたゼフェルに感謝しつつその場を離れるべく、ランディは自慢の健脚でジュリアスの執務室へと急いだ。
◆◇◆
「…ああ、きたか」
相変わらず直立不動の姿勢でジュリアスはランディを迎えた。
何度会おうとここでこの人と会うと肩がこる気がする。
「はい、何の御用でしょうかジュリアス様」
…急いで走ってきて考える暇がなかったが、本当に何の話だろう?
最近彼の怒りを買うような事はしてないはずだし…
「警備の任は、快調らしいな。話はオスカーから聞いているぞ」
「あっ…ありがとうございます!」
警備は最近増えた、彼の任務のうちの一つ。
憧れのオスカーと共に仕事が出来るので張り切っていたのだが、その張り切りは彼の耳まで届いていたらしい。
働きを認められる、とは嬉しい物で思わず知らず顔が緩む。
「そこでだ、これは常々思っていたことなのだが…」
「はい?」
「そなた、肉体労働しかしておらぬだろう?」
「ええ…それが俺のとりえですし」
一体、何の話だろう?
「守護聖たるもの、事務も出来ねばならん。分かってるな?」
…少し、嫌な予感。
「え、ええ…まぁ…」
「分かってるならいいのだ。―そなたにも、このような仕事に慣れてもらわねばならんからな。」
きぃ…椅子を少し引き、引出しを引く。
「…あ、あの…もしか、して…」
どん!
「これを、やってもらおう。」
差し出されたのは、軽く百枚はありそうな紙の束…。
「………………」
つまり、ジュリアス様は…俺に書類仕事をしろ、と?!
自分でいうのもなんだが思いっきり適材適所ではない。
「何、心配するな。普通にやれば5日程度で終わる。」
「………」
今、水の曜だから…5日後というと…月の曜…。
「あ、あの…俺…」
「なんだ?何かほかに重要な仕事があるのか?」
そんな物あるはずが無い。
「オスカーから週末ランディには仕事が無い、と聞いたからこの書類を回そうと思ったのだが…」
そう、週末はいつもあけてある。
栗色の髪の少女のために。
…しかし、そんなことがあのジュリアス様に言えるか?
……………否、断じて否!
「いえ、分かりました…ジュリアス様…」
「そうか、よかった。日の曜日をつぶせば執務にも差し支えはなかろう。
―提出期限も月の曜だから、それまでに終わらせろ。」
◇◆◇
それからランディの戦いが始まった!!
「うーと…ここの問題をこう解決しようとすると…こっちに問題が起きてしまって…」
慣れない書類との取っ組み合い、頭脳労働の嵐。
これくらいなら百人組み手をした方がまし!…しかしランディは投げ出さない。
「う…眠い…いやッ!ダメだ!!」
どんなに辛い時であろうが、少女の笑顔を思えば勇気がわいて出てくる。
心から幸せが生まれるのだ、難しく言うと脳内麻薬の分泌だ。
「何やってんだよ、おめー」
ゼフェルがからかおうと
「あー…大丈夫ですかー?」
「ど、どこか悪いんじゃ…」
ルヴァとマルセルの失礼発言も
「キャハハ、面白い物見れちゃった☆」
「お、オリヴィエ。失礼ですよ!いくらランディがいつも脳を使ってないからといって…」
「ふ…そなたのほうが失礼だろう…」
オリヴィエ、リュミエール…なんとクラヴィスまでもが見に来ようと
「…ランディ様ー…いらっしゃらないみたいね…」
愛しの少女の声も聞こえず書類に没頭しつづけた。
…ってそれでいいのか?!
「どうしたランディ。書類抱え込むなんて珍しいな。」
徹夜二日目。噂を聞きつけたオスカーがやってきた。
―ランディ乱心!の噂はもう聖地ではトップニュース。
何しろあの主任研究員や皮肉屋までもが執務室に足を運んだほどだ。
これを見に行かないわけにはいかんとオスカーも仕事の都合を無理やりつけてやってきたのだった。
「…オスカー様…」
いつもの活発な無駄に元気のあふれた動きはなく、少しやつれている。
空色の瞳が疲れで少しくすみ、オスカーを見つめていた。
「なんだ?」
「『せいち』の『せい』ってどんな漢字でしたっけ…?」
「……『聖』」
さらさらと、慣れた手つきでペンが紙を走る。
「あ、これか…」
ランディのかるい脳味噌に書類仕事はさぞきついのだろう。
「…ま…頑張れよ」
皮肉を言う気も失せて素直にオスカーは応援の一言をこぼした。
「…はい…」
疲れきった少年、というのもまた物珍しい気がするが気味が悪いというのが正直な所だ。
「……ああ、そうそう。ランディ、『とんびに油揚げ』って知ってるか?」
「は?」
「いや、分からないならいい…じゃあな。」
なぞめいた微笑みを残してオスカーはランディの執務室を後にした。
残されたランディと言えば…
「…『とんび』って…鳥だよな、油揚げ、食べたっけ…?」
見当違いな事で少し悩み…
「まぁいっか…」
すぐ書類に没頭し始めた。
「あの、オスカー様。ランディ様は…?」
「よう、あぶらあ…おっとお嬢ちゃん。」←トンビ
「はい?油揚げ…?」
「いやいや、こっちの事だ。
何があるのか知らないがずいぶん熱心にやってるぜ、ランディは。」
「…そう、ですか…どうしたんでしょう…」
純粋な、好奇心など微塵もない言葉と寂しそうな顔。
きゅんっ…
「(…こ、このオスカーともあろうものが…)」
慌てて気を沈めてセルフコントロール。…吸って…吐いて…
「オスカー様?」
「ん?なんだいお嬢ちゃん(きらーん)」
上手くいったようだ。
「いえ、お顔が赤いから…風邪でも引いたんですか?」
「…」
聖地に来てから、初めて『炎の守護聖』としてではなく『オスカー』個人を心配してくれる人に会った気がする…。
「いい子だな…お嬢ちゃんは。」
「え?」
「いやいや、なんでもない、そうだ、これから暇なら一緒に森の湖を回っていかないか?」
「え?いいんですか?お仕事が最近大変だって…」
「平気さ、…さ、行こう」
だからたまるんだ、仕事が。
「(ランディには悪いが、機械は最大限に使わせてもらうぜ…)」
―まさに『トンビに油揚げ』!おそるべしオスカー!!
◆◇◆
土の曜日、深夜。
「う……」
脳内麻薬の効果が切れてきたかペンを持つ手が震える。…あるいは聞きすぎてるのかもしれない(笑)
「…あと、少し…でも…」
徹夜3日目、無限の体力の持ち主と思われていたがさすがに限界に達そうとしていた。
「明日なの…に…………zzzzzz」
とうとう沈没。
きぃ…
その時、小さく、気を使われて扉が開けられた。
当然の事ながら睡眠をむさぼるランディは気付いたそぶりも見せない。
「…ふぅ」
こっそり入って来た金の髪の男はランディが起きない事に安心したように溜息をつき、今度はそろりと机に近づいていく。
「……」
机に到着。横に立っていても気付きもしない、この様子ならばいいだろう。
男は持ってきた荷物からペンと、インクを取り出し…
「やっほー!」
がしゃぐしゃばらっ!!!
突然の自分ではない陽気な声の闖入者に驚き男は荷物を取り落とした!!
「お、オリヴィエ?!」
「なぁにやってんのかなー?…ジュ、リ、ア、ス☆」
「なっ、静かにせぬか!ランディが起きるであろう?!」
「アンタのほうが声は大きいから安心しなさい。」
オリヴィエの言葉に今気付いたのか慌てて口を手でふさぎ、ゆっくりとランディの方を向く。
「……zzzzzzzzzzzzz」
「ふぅ…起きなかったか…」
「よっぽど疲れてたんだねぇ。」
ちら、と意味ありげな視線をジュリアスに送る、と分かっているのか気まずそうにジュリアスが視線を逸らした。
「で、質問に答えてないわよ?…何しにきてたの?」
「…ランディに押し付けたのは私だからな。日の曜に約束があると言ってくれたら私とてこんな事は言わなかったというのに…」
ジュリアスの言葉にオリヴィエが目を丸める。
―ジュリアスがゴシップなど知ってるはずが無いと思っていたのだ。
「…それ、誰に言われたの?」
「?オスカーだが…」
「…はっはぁ…なるほど。」
「―オリヴィエ、そういうそなたこそ何をしに来たのだ?」
少し混じる叱咤の色に臆さずオリヴィエはいつものペースで言った。
「わったっしっは、こそこそ忍び込みに来た団体さんを追っかけてきたダケよぉん?」
ぱちん、とウィンク。
「…団体?」
「そ、あんたが先頭の、ね★」
ぎいっ!
「ひどいじゃないですか、オリヴィエ様…」
「あはっ、見つかっちゃいましたね…」
「…だから団体行動は嫌いなんだ。」
オリヴィエが執務室の扉を大きく開くとそこには教官三人組、
「あ、ああ〜見つかっちゃいましたね、ゼフェル」
「おっさんがちんたらしてっからだろ!」
ルヴァ、そしてなんとゼフェル!
「そなたたち…」
「ジュリアス様もいらっしゃっていたのですか、…ふふ、考えることはみな同じですね」
「いっや〜、このお人が走り回ってくれへんと調子狂てしまうから、な?」
「な、何故そこで私にふるのです?!」
「照れんでええやん!」
「メルもね、メルも!お手伝いしに来たの!」
「僕もだよ、ふふっ」
「…ふっ…」
リュミエール何故か謎の商人、エルンスト、メル、マルセル、…そしてクラヴィスまで!
「……愛されているな、ランディは」
健やかな寝顔を覗き込み、呟くと何故かほほが緩んだ。
「うるさい方ですからね、それだけみんな彼の不在は違和感があったってだけでしょう?」
「かも知れぬ…さ、夜が明ける前に書類に取りかかろう。−起こさぬようにな。」
◆◇◆
「………ま、まずい!寝ちゃった!!」
がばっ!!窓からは日が差し込んでいた…もう、間に合わない…!!
「……あれ?」
机の上には散乱した未整理の書類、ではなく…
「出来てる…」
信じられない気持ちで目の前の紙の束を見る。
しかしそれが出来てる事には変わりない。
「出来てる?出来てる!!」
何故かはこの際どうでもいい!出来ていると言う事実が大切なのだ!
「す、すぐジュリアス様に提出しなくちゃ!!」
慌てて走り去る、久しぶりのまとまった睡眠のおかげで体も軽い。
「(アンジェと、アンジェとデートだ!!)
さて、庭園。
オリヴィエ、オスカー、ジュリアス。…なんとも物騒なメンバーでカフェを占領していた。
「…幸せそうだな。」
少し遠くの、二人の姿。
隣にいるのが自分でないのは悔しいが、彼の笑顔はそんな事を忘れさせる。
「ま、頑張った甲斐がある、ということかな」
オスカーの言葉に二人がゆっくりうなずく。
「…そー言えばさー。オスカー、あんた昨日来てなかったでしょ」
「…何のことか分からんな」
「…そういえば」
一番あの後輩を思ってるのは彼だと思っていたのだが、確かに昨日…と言うか明朝、彼の姿はなかった。
「さて…」
「お仕事大変だったんですね、…今日はもういいんですか?」
「大丈夫だよ、君のために早く終わらしたかったんだ。」
「…えっ…」
ランディはいつものごとく無意識に言ってるのだが、その言葉に少女の顔が赤く染まる。
「そうそう、仕事といえば面白い事があったんだよ。一時間の仮眠を取ってる間に書類が少し進んでるんだ。厄介なところを後回しにしてたらそこがとかれていたり!」
「あ、…それって…」
何か知ってるのか少女が口を開きかけて…止めた。
「俺思うんだけどさ、小人さんだって!知ってるかい?あの靴屋の手伝いをしてくれる…」
「知ってます、…きっと可愛い小人さんだったんでしょうねぇ」
ちら、と少女が視線を動かすと赤毛の青年が珍しい組み合わせでお茶をしていた。
見ている事に気付いたか、青年は苦笑を漏らす。
「―終わって良かったですね、ランディ様」
「ああ!…けど、もっと頑張らなくっちゃな、書類がすぐ終わるようにならないと一人前になれないよ!」
「……へー…ふーん…」
二人の会話が聞こえていたオリヴィエが面白い物を見るようにオスカーに視線を送る。
「…言いたい事があるならさっさと言ったらどうだ…?」
「べっつにぃ〜?ね、小人さん!」
「誰が小人だ、誰が!!」
「…オスカー…」
なんとも、この男らしい。
―昨日ランディの手伝いをするようにジュリアスに進めたのも考えればオスカーだった。
考えすぎかもしれないが、もしかして噂を流したのも…。
「―難儀な奴だな」
「…ジュリアス様まで…」
「イイ人なんだから☆もう!」
おわり
藤之 無何有様へ捧ぐ…
『深海魚家』初のキリ番ゲット、おめでとうございます!
これって深海魚初のランディ創作なんです…こ、こんなんでよかったですか?
『ランディ』って言われてかなり困ってました。書こうと思ったこともなくて四苦八苦の連続。いい勉強になりました。
けど書いてるとランディが可愛いくて可愛くて。…え?こんなに間抜けじゃない?(笑)
ランディ創作というよりはオールキャラ、オールキャラと言うよりはオスカー創作って感じ…やっぱしょせん深海魚でした(死)このオスカー様、気に入ってるんですけどね。
ああ、こいつ素直じゃねぇなぁ…でもおいしい所はできるだけ取ってるな、こいつ。