memorise melidy
「ん〜・・・今日もいい天気だな!!」
天気悪い日など滅多にないこの聖地で 当たり前事を口にする。
風の守護聖ランディである。
今日は土の曜でも日の曜でもなく 普段のいわゆる執務がある日である。
「・・・今日一日仕事してるのも もったいないな。たまには 出掛けてみるか!」
明るい独り言も 愛しく思えるのもこの風の守護聖の魅力であろう。
再び ん〜・・・と長い伸びをした後 ランディは執務室を後にした。
気温も常に 穏やかな温度を保っている聖地であるが
坂道を休まず歩いてきたランディにとっては 少し汗ばむぐらいになっていた。
「だぁ〜!!暑いな・・。でも、ここの丘の上にくるのも久しぶりだから
勝手に足が急いんじゃうんだよな。」
一人そんなことを言いながら 丘の頂上まであと少しというところで
膝に手を掛けて 息を整える。
ここは 聖地の中でも少しはずれた場所にある丘である。
ランディにとっては 秘密というかお気に入りの場所であった。
(・・少し 休むか・・)
頂上を急ぐ自分に 少し恥ずかしくなって近くの木に腰をかける。
しばらく目をつぶったまま 丘の風を感じていると
どこからともなく綺麗なメロディが聞こえてきた。
(・・・ん?なんだ?誰かいるのか?)
首を傾げながら ゆっくりと立ち上がる。
自然に忍び足になりながら メロディの発信源を探す。
少し歩くと 木々が開けた草原に出た。
ランディが一番お気に入りの丘の頂上である。
その草原の真ん中にぽつんとある石の上で 昼寝をするのが好きだった。
が・・今日は 先客がいた。
(・・アンジェリーク?)
後ろ姿で肩までの栗色の髪を風になびがせながら
小さな体を 小さく揺らし その少女は座っていた。
その姿を確認していながら、風の守護聖は声をかけられずにいる。
何故なら・・
「♪〜〜・・・♪〜・・・」
少女は 誰もいないこと信じ 恥ずかしげもなく
綺麗な歌を奏でているからだ。
「アンジェリーク?」
盗み聞きしている感覚に襲われ たまらず声をかける。
その声に反応し 後ろを向いたまま少女は肩をゆらす。
「・・・ランディ様・・・。」
情けない様な 困った様な顔をしながら アンジェリークは振り返った。
「やっぱりアンジェリークだったんだね。ここって俺の特別な場所だからアンジェリーク
がいて、びっくりしたよ。」
警戒しているアンジェリークをよそに 彼女のそばに小走りで駆け寄る。
「しかも綺麗な歌だろ?勝手に足が向いちゃった。」
「・・・・。」
アンジェリークは固まったままである。
「あ・・あのさ。盗み聞くつもりはなかったんだ。」
堪りかけたあげく 言い訳をする。
アンジェリークが恥ずかしがると思って 普段と変わらず話しかけたのだが
限界だった。
「本当に、ごめん・・・。」
「えっ!あ!・・・全然いいんです。」
急に頭を下げたランディに驚いて 彼女が顔のまえで手を振る。
「ただ、びっくりしちゃっただけなんです。」
「そっか・・。怒ったのかと思ったから、ほっとしたよ。」
どちらともいわず 二人で並んで石に腰掛ける。
「でも、聞いたことのない曲だったけど何の歌なんだ?」
「私が前に住んでいた世界の歌なんです。私が離れる前に学校のクラスメイトが、
私のために合唱してくれたんです。」
「へぇ・・。思い出しちゃったんだ?」
「えぇ・・。」
少しの間をあけて・・
「やっぱり、前の世界が恋いしいんだな。」
ランディが前を向いたまま口にした。
「え?!ちっ・・違います!!」
「え?・・」
急に声を荒げたアンジェリークに面をくらって疑問の声を投げかける。
「そんなことないです!淋しいわけじゃないですっ!」
いや・・そんなこといってないけど・・と口にしようと思った瞬間
「私 部屋に帰ります。失礼しました!」
と、勢いよく立ち上がり小走りできた道を戻っていく。
「え?なんで?ちょっ・・ちょっと待って!」
あっけにとられながら 振り向くともう彼女の姿は小さくなっていた。
ランディは しばらく固まったままそこにいたが
「・・・・誤解だよ・・・」
もう誰にもいなくなった草原でぽつりと呟いていた。
その後 しばらく放心状態で丘の頂上にいた後
風の守護聖は聖殿に帰宅し ある扉の前に佇んでいた。
そこは 自分が最も苦手とする守護聖の執務室の扉の前である。
(誤解とはいえ・・アンジェリークを傷つけた責任は俺にあるよな・・。
う〜ん・・。他に謝り方が浮かばないし、不本意だけどコイツに頼むしかないか!)
なかなか扉をノックできずにいる自分を なんとか言い訳をつけて決心する。
そして・・
コンコンッ・・・
扉の向こうからあくびと思われる溜息が聞こえてくる。
少しして 扉が小さく開く。
「誰だ?」
中から出てきた少年は扉から顔を出し 左右を見渡す。
「・・んだ?誰もいねーじゃねーか。空耳か?」
首をかしげながら 扉を閉めようとした瞬間
「俺だけど・・・。」
と 聞き逃してしまうような小さい声でランディが声を掛ける。
少年が振り返ってみると 扉の死角になった場所にランディが立っていた。
「おわっ!ランディじゃねーか!なんだよ。びっくりしたぜ。」
「お前に、お願いがあるんだ・・・。」
目を逸らして 下を向いたまま話すランディ。
「お願い?俺に?めずらしーな・・。」
そうゆうと いつもとは違う雰囲気の風の守護聖を 何も言わずに
部屋へと促して 扉をしめた。
そして・・・しばらくたってからその扉の向こうから
綺麗とはお世辞ともいえない歌声と
少年の罵声が飛び交っていた。
アンジェリークとあの件があってから この執務室に彼女が訪れなくなって
一週間が過ぎようとしていた。
「やっぱり、今日もこないよな・・。」
この執務室の家主であるランディの独り言である。
謝るチャンスをと伺って 一週間待っていたのだが
彼女が訪れることもなく まだ謝れずにいる。
「ここは、やっぱり俺から謝りにいくのが妥当だよな。」
そう言うと、机の上の四角い箱を手に執務室を後にする。
そして、女王候補という名のもとに 常日頃頑張っている・・
そしてその姿をしばらく見ずにいた彼女の部屋の前に立っていた。
部屋をノックする。
扉の向こうから小さな声が聞こえてきた。
「は〜い?どなたですか?」
「俺だけど・・。ランディだけど。」
しばらくの間があって、扉が小さく開く。
「ランディ様?」
彼女が困った様な顔しながら ランディの顔を見つめる。
「あ!あのさ・・・俺、謝りにきたんだ。良かったら話を聞いてもらえないかな?」
慌てて話すをランディを見て彼女は コクンと頷くと
「・・とりあえず、部屋にどうぞ・・。」
と 扉を開く。
「うん・・。じゃ、お邪魔します。」
とりあえず・・という彼女がテーブルにランディを座らせ
お茶を差し出して ランディと向かい合って椅子に座る。
「・・・。」
「・・・・・。」
しばらく無言の二人だったが 意を決したようにランディが口を開く。
「あのさ!あの時のことは本当に ごめん・・・。俺は 馬鹿にしたつもりじゃなかった
んだ。誤解なんだ。えと・・・。なんていえばいいのかわかんないけど・・。」
言葉に詰まったランディが アンジェリークの前にズイッと執務室から持ってきた
四角い箱を押し付ける。
「え?・・なんですか?」
アンジェリークが首を傾げながら受け取った。
「お詫びに。俺から プレゼントなんだけど。」
そういうと、少し照れたように笑って
「開けてみて。」
とアンジェリークを促す。
言われるまま アンジェリークは手のひらサイズの小さい箱を
開いてみた。
カタッ・・♪〜〜・・♪〜・・
「オルゴール?」
そうアンジェリークがつぶやいた後
はっとした顔になる。
「これって・・・!」
「そうなんだ。アンジェリークがあの時歌っていた曲だよ。それを、オルゴールしてみた
んだ。・・なーんて偉そうなこと言えないな。俺が作ったわけじゃないし。
実は・・ゼフェルに作ってもらったんだ。ただ、俺が覚えていたところをゼフェルに
歌ってみせて オルゴールにしてみたから ちゃんと音程があってるかは分からないん
だけど・・。」
確かにところどころ 音程が外れているものがあれば
ひとつ音が足りないところもある。
「ははっ。俺、あんまり歌が上手ではないから、ゼフェルに((そんな下手くそな歌
曲にできるかよ!!))って何度も怒られながら作ったんだけどさ。」
そう あの時扉から聞こえてきた歌声と罵声は
まぎれもなくこのオルゴールを作っていた時のものである。
照れて話すランディを前に
アンジェリークはその情景を想像してみて 少し微笑ましく思い
くすっ・・と自然に笑ってしまう。
そしてちょっと笑顔になったアンジェリークにほっとして ゆっくりと話を始める。
「あの時のことは、本当に誤解なんだ・・。あの時 俺が言いたかったことは
俺もそうやって故郷を考えるときがあるよって伝えたかった。
俺の場合は どこにでもあるような誕生日の歌なんだけど、いつも自分の誕生日に
家族に歌ってもらったことを思い出すんだ。でも、それって大切なことだと思う。
ホームシックになるのは少し情けないけど、俺が家族を想うことでいつでも家族のこと
を忘れないし、家族だってきっと俺のことを忘れないで想ってると思うんだ。
それって、離れていても想うことは一緒ってことだろ?
そうすれば、また普段の生活もがんばろうって思えるしさ。
・ ・・俺、恥ずかしいこと言ってるかな?」
ははは・・と頭に手をあてながら 照れるランディを見て
「そんなことないです・・。私の方こそ ごめんなさい。
でも、ランディ様がそんな風に思っているなんて・・嬉しかったです。
私も、そう思います。だから、このオルゴール大切にします。
それで、わたしもみんなのこと忘れないで頑張れると思うから・・。」
と 小さな胸にオルゴールを大切そうに抱きしめる。
「あ・・でもその音程ぐちゃぐちゃだろ?だから・・」
一瞬言葉に詰まったランディを見つめるアンジェリーク。
「良かったら・・・またその歌を聞かしてくれるかい?・・・あの丘で。
今度はデートってことになるけど・・。」
真っ赤になったまま話すランディを
くすっと笑うと最高の笑顔でこう答えた。
「はいっ!喜んでっ!」
試験は始まったばかり・・。
でも、この小さな女王候補は寂しくならずに
試験に取り組めそうである。
その理由は。
オルゴールと・・目の前で照れくさそうに笑っている少年であろう。