巡る思いの輪
ジグザール公国はどちらかというと開放的な国である。
旅人にも広く門扉を開き、この地を訪れる冒険者も多い。
旅のさなかに立ち寄る者も多いが、むろん、旅立つ者も多い。
そして当然――かつてこの地を旅立った者が戻ってくることもある。
「ん〜!懐かしき第二の故郷、ザールブルグ!」
城門前で晴れやかな笑顔でのびをする女性の姿があった。
傍らには、荷物を抱えた男性がこれまた懐かしげに城門を見上げていた。
「リリー。じゃあ俺はヨーゼフの旦那のとこに顔見せてくるから」
「ええ、じゃああとでね、ヴェルナー」
そうして城門をくぐると、二人は思い思いの方向へと足を向けた。
コンコン、とアカデミーの教官室に、初老の男性のノックの音が響く。
髪も髭も白く染まってしまっているその男性は、数十年来変わることのない穏やかな面差しで、長年の教え子達に白い封筒を差し伸べた。
「イングリド、ヘルミーナ。…懐かしい人から、便りが届いたよ」
アカデミーで教壇に立つ身となっている、イングリドとヘルミーナ。
この二人にドルニエが「懐かしい」と呼ぶ人物は――おそらくあの人。
はやる心を抑えながらイングリドが封筒を受け取りそっと便せんを開いた。
そこには懐かしい人の、懐かしい筆跡があった。
『敬愛するドルニエ先生と、親愛なるイングリドとヘルミーナへ。
私が旅立ってから、もう二十回目の四季を数えましたね。けれど私が思い出すあなた達の面差しはいつまでもあの頃のままです。…長い間、居場所を知らせず、ごめんなさい。けれどこちらで一から始めたアカデミーもようやく軌道に乗り、やっと胸を張って皆に会えます。――皆はあのとき、私の我が儘を笑って許してくれましたね。今また私の我が儘を…私がもう一度ザールブルグに帰ることを、許してくれますか?
リリー 』
「リリー先生ったら…誰も駄目なんて言うわけないでしょうに…」
母とも師とも慕った人の便りに、思わず瞳の端を潤ませながらも、二人の顔には微笑みがある。
ドルニエも穏やかな笑顔を浮かべている。
「立派にやってますってところを先生に見せて安心させてあげましょ。
ま、私は心配いらないけど、イングリドはせいぜい取り繕うのね」
「なんですって!…あら?2枚目がある…えっと…え?…ええっ?」
二枚目の便箋の内容に、教師二人は暫く固まった後、顔を見合わせ、慌ててアカデミーを飛び出した。
「ごめんなさいね。道案内なんて頼んでしまって。
ずっとこの街を離れていたもんだから、道も建物も、すっかり様変わりしちゃってねー」
リリーの隣には、どこからどうみても聖騎士のいでたちの青年が並んで歩いている。
蒼い聖騎士の鎧を身に纏った青年は笑って手を振る。
「いえ、これも仕事ですから。――この街にお住まいだったんですか?」
「ええ、これでも錬金術士の端くれなのよ。
もう二十年くらい前になるかしら。エル・バドールにある、ケントニスからこの国に…」
「へぇ…。俺、つい最近そこに行ってきたばかりですよ」
「あら、ケントニスを知ってるの?今でも錬金術アカデミー以外にコレと言って見るところもない街だけど」
「いえ、俺の用事じゃなく…その…、俺の知り合いの女性が錬金術士で」
些かどもりながら言った青年の顔に微かに朱が差したのを目聡く見て取ったリリーは、くすっと笑みを零した。
「君の彼女?」
「なっ………!ち、違いますよ、俺は、その…!」
青年はかっと顔を紅潮させる。――実にわかりやすい性格のようだ。
くすくすと、ひとしきり笑いが続き、青年は紅い顔をして困惑する。
リリーが口元にやった左手の薬指に、赤い石がはまった古い指輪が光る。
青年はふぅとため息をつくとがしがしと頭を掻き、振り切るように視線を外す。
「…錬金術って、本当に何でも作れちまうんですよね。凄ぇ威力の爆弾だの、変な効能の薬だの…。
俺たまに、騎士の立場ねぇな、と思いますよ。
あいつに出来ないことなんて、何にもないんじゃないですかね」
リリーは笑いを納め、無意識にかいささか早足になった青年を、少し駆け足で追う。
青年は微苦笑を浮かべて言葉を続けた。
「下手したら、俺が守る必要もないくらい強いかもしれない。……それは悔しいんですけどね。
でも錬金術に打ち込んでるときの真剣な表情とか、錬金術で誰かのためになることを出来たときとか……
そういうときのあいつは、一番良い表情をしてるんですよ。
……って、俺なんで初対面の人にこんな話してんだろ。
……でも、なんか似てるんですよね、あいつと。
同じ錬金術士だからってのとも違うんですけど……雰囲気みたいなものが」
困ったような表情で人差し指を立て、誰にも言わないで下さいよ、という青年の仕草にリリーは返答の代わりに笑みを返す。
……不意に、リリーは目の前の青年とヴェルナーが重なったように感じた。
錬金術は、それを学ぶ者には当然のことでも、ごく普通の人々にとっては奇跡の術に見えることもある。
たしかに、金ですらも創り出せるそれは、端から見れば不可能のない技術にも見えるのだろう。
――追いつきたくて……追いつけなくて――
――あの人も、この青年が誰かを思うように、もどかしい思いで自分を見ていた事があったのだろうか。
そっと自分の薬指の指輪に触れると、愛おしそうな表情で目を閉じた。
「…あなたが思うほど、錬金術士は強くもないし、万能でもないのよ。
挫折もする。無力感も味わうわ。何かに縋りたくなる時だってあるもの」
懐かしい想い出が、閉じたまぶたの裏に鮮やかに蘇る。
叱咤もした。ふざけあったりもした。励まされもした。いつも傍には…あの人がいた。
「ただ、誰かが自分のことを思ってくれてるって…それだけで力になるのよ。
憎まれ口が後でとても暖かく感じたり、ぶっきらぼうな物言いに優しさを感じたりね。
…ん〜…なんか上手く言えないんだけど…力で守るばかりが守り方じゃないってことかな。
これはあたしなりの経験だけど、相手の子もあなたを憎からず思ってるんじゃないかしら――まぁ、頑張りたまえよ、青少年!あたしに似てるっていう彼女に、よろしくね」
リリーはウインクを一つ送ると、軽く青年の背を叩く。
青年が返答できぬうちに、二人は目的地にたどり着いた。
年季の入った建物を感慨深く見上げ、リリーは目を細める。
「ああ…懐かしいわ。ここは変わっていないのね…」
その建物の古めかしい扉がギィッと音を立てて開くと、シスターの白い装束に身を包んだ人影があらわれた。
青年はその人物に手を振る。
「こんにちわ、ダグラスさん。お祈りですか?」
「よぉ、ミルカッセ。
そういう殊勝な用事じゃなくて悪ぃけどよ。この人がフローベル教会への道を教えて欲しいって言うから道案内にな」
指し示された当のリリーは、驚きの表情でミルカッセを見ていた。
「…あなた…ここの娘さん?
…まぁ、なんて可愛い!こんな可愛らしい娘さんがいるなんて…いえ、不思議じゃないけれどっ。
…あらいけない。用事を忘れるところだったわ。――クルト神父はいらっしゃるかしら」
「は…はい。父は今、聖堂でお祈りを…ですがもう済む頃ですわ。
お客様をお待たせするわけにも参りません。ご案内します。どうぞこちらへ」
ひとつ会釈をして聖堂へと案内するシスターの後ろ姿に付いていきながら、リリーはひとつ大きなため息を付いた。
「うーん、あのクルトさんにあんな大きな娘さんか〜。
はぁ、こんなところでも年月の重みが……。年を取るはずだわ〜」
ミルカッセに案内され聖堂へはいると、アルテナ像の前で跪いて祈りを捧げていた神父は立ち上がり振り返る。
そして自分を呼んだ女性の姿を認めるなり、その相好を崩した。
「リリーさんではありませんか?なんとまぁ…お久しぶりです!」
「お久しぶりです、クルトさん。長い間、ご無沙汰をしていました。
早速ですけれど、折り入って依頼したいことがあって…」
『リリー先生っ!!』
バァン!と非音楽的な音を立てて聖堂の扉が開き、教会の聖堂に、二人の女性の声がハモって響く。
突然響いたその声に振り向くと、アカデミーで教鞭を執っている二人の女性が息を切らして立っていた。
リリーはにこっと笑って二人に手を振る。
「あら、イングリド、ヘルミーナ。お久しぶりねー!」
「お…『お久しぶりねー』じゃありませんわよっ!」
「――これ!こーゆーことはもっと早く知らせてください!」
イングリドはリリーからの便りをパシッと指で弾いた。
その便箋の文末には、一枚目とはうって変わって明るい調子でこう書かれていた。
『p.s.フローベル教会で式を挙げに帰って来まーす♪手紙が着く頃には帰ってますからね〜』
リリーは頬をぽりぽりと書きながら、すいっと視線を逸らす。
「…だって結構恥ずかしいじゃない?
この歳だし。大仰に出迎えられても困っちゃうし…で、クルトさん。そーゆー依頼なんですけど…」
クルト神父へくるりと振り向くと、人生の年輪のなせるワザか、彼は狼狽も困惑もせず、変わらずに穏やかな微笑を浮かべていた。
「もちろん、喜んでお引き受けいたしますとも」
そのころのヴェルナーは、教会への道を歩いていた。
その隣には、錬金術士独特の風体をした少女が小さな荷物を抱えて歩いている。
「へえ、ザールブルグにお住まいだったんですか」
少女は、瞳を輝かせてヴェルナーの旅の話に聞き入っていた。
「ああ、生まれもここだぜ。ちょいとばかり街を離れたら、帰ってくるのが二十年も後になっちまった。人の留守に街並みもすっかり様変わりしてやがる。
すまねえな。用事があったんだろうに道案内なんか頼んで。
…にしても、すっかりアカデミーもザールブルグにとけ込んでいるな。
あいつが資金繰りに走り回ってたのがこないだのことみたいなのになぁ。俺がこの街を出た頃は、建物もできたてで初々しいもんだったが」
「へぇ…あ、知り合いって…もしかして校長先生とかっ?」
「はは、一応顔は見知ってはいるが、はずれだ。
…そうだな、ちょうど今のお前さんみたいな感じだったな。
元気が良くて、錬金術に熱中してて、『錬金術で多くの人を幸せにしたい』って、いつも元気に笑ってた。
――そういえばお前さんは?なんで錬金術をやってんだ?」
少女は、照れたように俯くと、真っ直ぐ視線を前に向ける。
「私、小さな頃に流行り病にかかって死にかけたところを、錬金術士に救われたんです。
だから私も、その人と同じように一人でも多くの人を助けられたらって…それが、私の夢なんです」
少女は、まだ全然ですけどね、と照れくさそうに肩をすくめる。
「…本当によく似てるよ。俺は結局夢を見つけることが出来なかったが、…夢を持ってる奴って、生き生きしてるよな。羨ましいこった」
ヴェルナーは穏やかな笑顔を浮かべた。そして自嘲の笑みへと変わる。
「俺がこの街を出たのだって、ある人に会いたくてしょうがなくなっちまって…それだけのためだしな。
自分の目的を見つけられなかった上に女を追っかけただけの、成長ナシの情けない男だって…笑っていいぜ」
自分を嘲るような笑いに、少女が眉を顰めた。
「――それは、違うと思います。見つけてるじゃないですか」
少女は明るく笑うと空を仰ぎ、陽差しに手を翳す。
「『何か』を追うのも、『誰か』を追うのも、夢には違いないって…あたしはそう思います。
立派な錬金術士になるのもそうだけど、助けてくれた人に会いたいっていうのも、間違いなくあたしの夢の一つですもの」
少女は迷いもなく真っ直ぐ前を見てそう言った。
ヴェルナーは驚愕したように少女を見て、次いでふっと笑う。
ずっと背負っていた負い目のようなものが軽くなったような気がした。
「――ありがとよ」
ふと、なにかを思い出したように手荷物の中を探ると、ヴェルナーは少女になにやら丁寧に布でくるまれたものを差し出した。
「…もしよかったら、もらってくれ。俺が持っているより、お前さんが持ってた方がいい。
俺の気持ちを軽くしてくれた、礼だ」
それはチャラリ、と音を立てて少女の手の中に移る。
そっと布を開いた少女の手には、古めかしいがどこか暖かい風合いのペンダントが柔らかな陽差しを受けて鈍い光を放っていた。
「…これは…?」
「…ずっと昔に、俺がもらったものさ。惚れた相手にやると、想いが伝わるんだとよ。
……お前さんが大事にしたいと思う野郎にやるといい。…まぁ、まじないみたいなもんだと思ってな」
少女はそんな大事なものを受け取っていいものかと困惑していたが、ヴェルナーが無言で微笑んで頷くと、頬を染めて、きゅっとそれを握りしめた。
もしかしたら、彼女も誰かを思い浮かべたのかも知れない。
「…はい!ありがとうございます。大切にします!」
「――あ、見えてきましたよ。フローベル教会はあそこです」
少女が指さした先に、教会の建物の前で、談笑しているいくつかの人影があった。
そのうちの一人が二人に気が付いて手を振る。
「おぅ!エリーじゃねえか?」
「あれぇ、ダグラス?どうしてここに。…っていうか……この大所帯は一体何事?
イングリド先生にヘルミーナ先生まで…」
エリーと呼ばれた少女は青年の元に駆け寄った。
ザールブルグの街に住む人々にとって、聖騎士は畏怖と、尊敬と、憧れの象徴だ。だが二人には気心知れた気軽な言葉の応酬がすでに自然な形になっている。
「いや…実のとこ、俺にもよくわからねぇんだけどよ。
聞きかじった感じだと、昔に教わってた先生が、式を挙げに帰ってきたらしいんだ」
「式?…ここで?……じゃあもしかして相手は…」
エリーが想像を口にするより早く、フローベル教会の主が、ヴェルナーに笑顔で近づいた。
「ああ、やはりリリーさんのお相手はあなたでしたか。
貴方がこの街を出て以来ですから…二十年ぶりですか。お元気そうでなによりです」
クルト神父の言葉に、ヴェルナーはにやりと笑みを浮かべる。
「おうよ、押し掛け亭主さ。悪ぃか?
――お前さんも、恙なく過ごしているみたいじゃねぇか。とりあえず、旧い知己が無事なのは嬉しいぜ」
ヴェルナーが差し出した手を、クルト神父が静かに握り返した。
女教師二人は、ヴェルナーに挨拶をする傍ら、前触れなしに突然帰ってきたことに文句をつける。
クルトが諫め、リリーが明るく言い訳する。時折どっと笑い声があがり、時折しんみりと過去の想い出を語る。
エリーとダグラスの二人は、何やら入っていけない雰囲気を感じ取ったのか、顔を見合わせて笑い合うと、その場を後にしようとした。
「――っと。おい、ちょっと待ってくれよ。騎士の兄ちゃん!」
背を向けた二人に気付いたヴェルナーが、ダグラスを呼び止めた。
予想外の人物に呼び止められたダグラスは、自分を手招きして呼ぶヴェルナーの元に訝しげにしながらも近づいた。
ヴェルナーはダグラスを、肩を組むような形で引き寄せる。
「お前さん、あの娘の彼氏かなんかか」
耳打ちするように小声で問われた言葉に、ダグラスは顔を染める。
「ち、違う!」
ヴェルナーはくくっと笑うと、ダグラスの蒼い鎧の肩を軽く叩く。
「ま、錬金術士の女なんぞに惚れると、色々と苦労するぜ。
特にああいうタイプは、捕まえたと思っていても、気が付くといつの間にか飛んでいっちまう。
……そいつのいない寂しさに耐えかねて、追いかけていきたくなるぜ。――ちょうど、この俺みたいにな」
「……実に説得力のあるお話で」
「そりゃあもう、体験談だからな」
「…じゃあ、城壁の外での慣れた闘いぶりに唖然としたりとか?」
「そうそう、錬金術に熱中しすぎているのを見て心配したりとかな」
「品物の調達を、よそで済むのにわざわざ彼女に依頼に行ったりとか」
「人のことは鋭いくせ、自分の色恋には鈍い彼女にやきもきしたりとか」
『……………………』
二人は、互いの肩をぽんぽんとたたき合った。
「ダグラス、ヴェルナーさんと何を話していたの?」
「…別に、なんでもねぇよ」
教会から帰る道すがら、問われた言葉に顔を真っ赤にして、ダグラスはつかつかと歩調を早める。
エリーは、待ってよ、とダグラスに慌てて付いていこうと駆け出した。
エリーがまた隣に並ぶと、ダグラスは彼女に会わせて歩調を落とす。
彼のそんな無言の優しさが嬉しくて、エリーはにっこりと隣の青年に微笑んだ。
「なぁ…エリー」
少女が見上げた青年の横顔は、今までになく真摯だった。
「今年の武闘大会は絶対に勝ってみせる。そしたら俺…ずっとお前に伝えたかったことを言おうと思うんだ。
だから…俺を見ててくれるか?俺の力でどこまでいけるか、何よりもお前に、見届けて欲しい」
エリーは懐にしまったペンダントに、服の上からそっと手を重ねた。
ダグラスは、照れ隠しのようにエリーから視線を逸らす。
エリーは再び傍らに立つ青年を見上げると、にっこりと微笑んだ。
「――うん、わかった。ずっと見てるから」
「へぇ、あのペンダント、あの子にあげたんだ」
クルト神父に誘われるまま泊まることになったフローベル教会の一室で、二人は茶を飲みながら談笑していた。
懐かしい地の旧友たちのこと、この街での二人の想い出のこと、色々な話をとりとめもなくしていたとき、ペンダントのことに話題が移った。
ヴェルナーはティーカップを目線まで持ち上げ、乾杯の仕草をする。
「ああ、ずっと俺の宝物だったが、俺が持ってるよりいいと思ったんでな。
なにせ俺にはもう、嫁さんがいるしな」
「あら、その台詞、私がヨーゼフさんにペンダント貰った時とそっくり。
――でも、嬉しいわ。ずっと大事に持っていてくれて」
「当たり前だろ。…ところで、あのペンダント、どうなると思う?」
「まず間違いなく、あの聖騎士の坊やの物になるんじゃないかなーと」
その台詞にヴェルナーはぷっと吹き出し、リリーもつられて笑い出す。
「まったく、お前は他人のことは相変わらず目聡いな。自分のことには気付かねぇくせによ。
その鈍さに、俺も苦労させられたもんだ」
リリーはヴェルナーを見返すと、所在なげにティーカップを玩びながら、ちらちらとヴェルナーを見て、言い出しにくそうに何度も俯いた。
「…ねぇ…あなたも…思っていた?その…私が遠いって言うか…」
リリーの言わんとすることを察したか、ヴェルナーはにっと笑うとリリーの頭に手を置き、がしがしとその髪を掻き回した。
「…お前は余計なことを気にしないで、前へ前へと進んでくれればいいんだよ。
ここに帰ってきてはっきりわかった。お前の夢の…その手助けをすることが、お前を支えることが、俺の夢になっちまってるんだから」
リリーは今にも泣き出しそうに…だが、この上なく嬉しそうに笑った。
「うん…私の夢はあなたの夢。あなたの夢は私の夢。独りよがりでなくそうであったらいいって…ずっと思ってたのよ。
ヴェルナーがいてくれたから…支え続けてくれたから、この二十年がんばれた。だからこの先の何十年かの人生を、あなたと生きたい。ずっと一緒に歩いていきたい」
ヴェルナーは優しく微笑み、二十年連れ添ってきた女性の肩を抱いた。
懐かしい知己との再会。かつての二人を思わせるような青年と少女との交流。二人が出逢った街で、言葉にならない何かを確かに掴んだ。
形を変え…紡ぎ手を代え…時代と共に、思いは受け継がれていく。
ザールブルグの夜空は、祝福するように二人を静かに優しく包んでいた。
fin.
「スキあり!」に寄稿させていただきました、ヴェルリリ創作です。
20年後です。でもヴェルリリです。
…ダグエリ目立ってます(爆)。でもヴェルリリです。
誰がなんといおーとヴェルリリです(開き直り)。
藤之は、締め切りやぶりに頁数超過という極道なまねをしました(笑)
悪い。許せ、ごめんよ、智砂乃しゃ…。