love token
「………はぁ」
大きく溜息をつくと、風の守護聖ランディは机の上で頭を抱えた。
今朝から…、いやここ数日ずっとこんな調子である。
原因はというと、執務机においてある小さな箱。
奇麗にラッピングしてあるそれはアンジェリークへの誕生日プレゼント。
一月も前から用意していたのだが、今になって渡すのを躊躇っているのだった。
もちろんただの誕生日プレゼントとして渡すのならこんなに迷ったりもしない。
けど、彼はある決意を込めてこのプレゼントを用意したのだった。
だから………
「………はぁ。まったく情けないよな」
ランディは手の上で小さな箱を弄びながら今日何度目かになる溜息をついた。
執務室の外では、もう日が傾こうとしていた。
■■■■■■
「……ふぅ」
少女は小さく息を吐き出すと、ベッドの上にころん、と横になった。
そのまま顔だけ横に向けてテーブルの上に詰まれたラッピングの数々を見遣る。
白い薔薇の花束、手彫りの精密なオルゴール、繊細なガラス細工、可愛らしいぬいぐるみ、奇麗な細工のペンダント、パールピンクのルージュ………
他にも数え切れないほどのプレゼント。
今日はアンジェリークの誕生日だった。
朝から守護聖様たちや教官の方たちがひっきりなしにやってきては、お祝いの言葉とプレゼントをおいて帰っていった。
プレゼントよりも皆さんの気持ちが嬉しかった。
でも────
この中に欲しいものはなかった。
違う、欲しいのは「もの」じゃない………
「やっぱり……ランディ様に嫌われちゃったのかな………」
アンジェリークは仰向けになると両腕を頭の方へやる。
じわり、と涙が零れそうになる。
ここ数日、ランディ様に避けられてる気がしていた。
執務室に伺っても今は忙しいから、と用件しか聞いてくれない。
公園とかで会っても、こちらから話しかける前に逃げるように行ってしまう。
かと思うと、じっとこちらを見ているときもある………。
もしかしたら、私がランディ様のことを想っているのがばれて、鬱陶しくって避けられているのだろうか?
でもだからといって直接ランディ様に問いただすことなんて出来ない。
他の方にも聞けない。
もし、「そうだ」と肯定されたら…そう思うと怖くて聞けない。
だからもし今日きてくれたら、そんなことはないんだ、本当にただ忙しかっただけなんだ、そう思おうと思っていた。
アンジェリークは窓の外を見る。
日が沈みかけている。
────待ち人はやってこない
■■■■■■
「……やっぱり、マルセルから渡してもらおう。」
ランディはそう呟くと椅子から立ち上がる。
部屋の中はすっかり暗くなっていた。
小さな箱を手に、執務室を後にする。
コンコン
マルセルの執務室をノックする、が返事がない。
ノブを回してみるが鍵が掛かっているみたいである。
「もう、帰った後か……どうするかな。」
やっぱり自分で渡しに行くべきか………
ただの誕生日プレゼントとして……
それなら他の守護聖達もきっと持っていってるだろうし(マルセル達も彼女にプレゼントするって言ってたし)何もおかしくは思われないはずだ。
変な意味を込めようとするから渡しずらくなるのであって………
たとえアンジェリークに想いが伝わらなくても受け取ってもらえたらそれでいいじゃないか。
自分で自分を言い聞かせるように葛藤を繰り返していると、不意に後ろから声をかけられた。
「マルセル!帰ったんじゃなかったのか?」
慌ててアンジェリークへのプレゼントを後ろ手に隠す。
「うん、今から帰るところ。
ランディこそ、どうしてこんなところにいるの?
アンジェのところからもう帰ってきたの?」
「え?あ…あのさ、マルセル。
そのことなんだけど……これ、マルセルからアンジェリークに渡してもらえない…かな?」
後ろ手に回したものをまた前にもってくると、ランディはマルセルに包みを差し出した。
マルセルは驚いたように目を丸くすると突然怒りだした。
「ランディ!?
これ、一体どう言うこと?
僕から渡してくれって、それ…本気で言ってるの?
だとしたら、僕ランディのこと見損なったよ!!
ランディ、アンジェリークが誰を待ってるのか本当に分からないの?
今日僕がアンジェのところに行った時の喜びと落胆の顔…知らないでしょ。
チャイムの主が僕だって分かったときのアンジェの顔、すごく寂しそうだったんだよ。
もちろん、アンジェは優しいから僕に気付かれないようにすぐ笑ってくれたけど、でも待ってるのは……。
────や〜めた、僕がいちいち言うことじゃないよね。
ランディ、今すぐアンジェのところに行って。
そしてちゃんと伝えてあげてよ、ランディの気持ちを。」
「マルセル…でも、俺は………」
アンジェリークへのプレゼントを手にしたままのランディを反転させると、マルセルはその背を軽く押した。
「ほら、アンジェリークが待ってるよ。
早く行ってあげてよ。
行かないと本当に絶交だからね!!」
それでもまだ戸惑いがちにマルセルの方を向くランディに、マルセルはにっこり笑った。
その笑顔を見てランディも漸く腹が据わったようで、力強く頷いた。
「分かったよ、マルセル。
俺、ちゃんとアンジェリークに言うよ。
ありがとう」
そう言うとランディはアンジェリークの元へと走っていった。
駆けていく友人の背を見ながら、マルセルは一粒の涙をこぼした。
「…これでいいんだよね。
だって、僕アンジェの笑顔が大好きなんだもん。
大好きなアンジェがいつも幸せそうに笑ってくれたらそれだけでいいんだ………
アンジェ、幸せになってね」
■■■■■■
「………んっ」
あれ?いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
今…何か音が聞こえた気がしたけど………
アンジェリークは目を擦りながらベッドから起きあがる。
────ぴんぽん
どうやら気のせいではなかったらしい。
アンジェリークは慌てて部屋の扉の前まで行って、止まった。
時計を見るともう既に8時を過ぎていた。
こんな時間に一体誰だろう?
レイチェル…かな?
────ぴんぽん
開けるのを躊躇っているとまたチャイムが鳴らされた。
アンジェリークは急いで扉を開いて驚いた。
「ラン・・ディ・・様?」
目を疑うように少女は扉の前の少年を見つめた。
「こんな時間にごめん。
俺…ずっと迷ってて…君にこんなものを渡して突き返されたりしたらって思うと怖くて、勇気を司る守護聖が聞いて呆れるよね。
でもマルセルに言われて俺初めて気がついたんだ。
言わなきゃ何にも伝わらないって。
それにどうしても今日中にこれを…渡したかったんだ」
「あっあの…ランディ様。
話が……見えないんですけど。」
突然の展開にアンジェリークは頭がついていけず目を白黒させていた。
ランディは、はっとすると「ごめん」と謝り小さな箱を少女の前に差し出した。
「……誕生日おめでとう、アンジェリーク。」
「あっ………」
目を大きく開いたままアンジェリークはそれを受け取った。
「それから………」
「えっ?」
ランディの言葉にプレゼントを両手にもったままアンジェリークはランディの顔を見上げる。
そこには真剣な眼差しをした少年がいた。
アンジェリークはその表情にどきり、とする。
心臓の音が早鐘のように鳴る。
「────好きだよ、アンジェリーク。」
欲しかった言葉
何よりも欲しかったプレゼント
他の誰からでもない、この…今目の前に立っている彼から欲しかった……
アンジェリークの目に涙が滲む。
「あっ、あのアンジェリーク?」
ランディが慌てた様な声をだす。
アンジェリークはランディの胸の中に飛び込んでいた。
「嬉しい────
私も……ランディ様のこと………」
「好きです」と最後は聞き取れないほど小さな声で、でもしっかりとランディの耳に届いた。
ランディはアンジェリークの背にそっと手を廻すと優しく抱きしめた。
「ありがとう、アンジェリーク。
この世に生まれてきてくれて。
俺と君は全然違う時代に生まれてきた。
俺が守護聖として聖地に居なかったら、君が女王候補としてここに召喚されなかったら出会うことすらなかったんだ。
でも、こうして今君を抱きしめられる…これって本当に奇跡みたいだ。
君と君を産んでくれた両親。そして俺を産んでくれた両親に感謝したいよ。
……愛してる、アンジェリーク。」
そっとアンジェリークの肩を掴むとランディはアンジェリークの口唇に自分の口唇を重ねた。
アンジェリークは優しいキスを受けながら自分をこの世に送り出してくれた両親に心から感謝した。
ありがとう、お父さんお母さん。
こうして私をこの世に生んでくれて、今まで育ててくれて…ありがとう
fin
■□藤之 無何有様■□
ハッピーバースデー、無何有さん♪
また新たに刻まれる一年、無何有さんに更なる笑いと幸福が降り注ぎますよう心からお祈りします。
折角のめでたい席に何だか全然中身のないお話でごめんなさい。
取りあえず気持ちだけでも受け取っていただけると幸いです(;^_^A
因みにランディ様のプレゼントは無何有さんの誕生石ピンクトパーズの指輪です。