少女は、物心ついたころから竹刀の音に馴染んで育った。
周りの同い年の女友達が興味を示すことにはさほど惹かれず、時間が余れば竹刀を振っていた。

小・中学校も剣道部で通した彼女は、高校でももちろん剣道部に入部するつもりで、学校のグラウンドの片隅に建てられたこじんまりとした道場風の剣道部部室を訪れたが、思いもしない壁に行く手を阻まれる。

「―――だから、マネージャー希望じゃないんですってば」

応対した部員の肩越しに部室を覗いてみればどうやら部員はみな男子ばかりで、女だてらに正規部員として入部を希望してきた変り種は彼女が初めてらしい。女子生徒が入るのだったらどうせならマネージャーに、という彼らの希望と、あくまで竹刀を振るうために入部を希望する少女の間で、要望の食い違いが生じたようだった。

「いいじゃないですか。部員になりたいって言ってるんですから、部員にしてあげたら。
いまどき女子ならマネージャーなんて方程式貫き通したら、女生徒から総スカンくらいますよ」

部室の奥から出された少女への助け舟は、優しい少年の声をしていた。
面を取ったその汗まみれの素顔は、歳の割には幼さがあって、どこか懐かしさを少女の胸に呼び込んだ。
不躾にぼーっと眺めてしまった自分に気がついて、少女はふるふると頭を振って邪念を追い払う。
頭にあわせて揺れるポニーテールの動きの激しさが、少女の動揺を表していたかもしれない。

「―――よろしくお願いします!」





少女の実力は、幾日もしないうちに部員全員が認めるところとなった。
素早い身のこなしについていけるのは部員でもほんの一握り、彼女から一本取れるのはさらに少数だった。

―――ビシィッ!

「一本!神谷!」

『ありがとうございましたッ』

礼をして面を外すと、にこやかな二人の笑顔。



「今日は神谷さんに取られましたね」

「昨日は沖田さんからは1本も取れませんでしたからね!リベンジ成功です」

お互い汗まみれで、防具を着込んだままのその姿でも、その二人の周囲だけ爽やかな風が流れていくようだ。
少女にとって彼は入部の際に助け舟を出してくれたという恩もあるが、少年はそれを恩に着せることもなく、純粋に竹刀を打ち合わせることを喜んでいた。
二人は同学年という気安さと、伯仲する実力のライバル心、そして持ち前の人当たりの柔らかさも手伝って、自然と仲よくなっていた。


「―――このあとなんか用事ありますか?一緒に帰りましょうよ」

「いいですよー。じゃ、ちゃっちゃと後片付けしちゃいましょう」

1年生同士ということもあって、部活の後片付けに組まされることも多い彼らは、肩を並べて帰宅することも増えていた。
その二人を視界の横にとらえて、部員仲間はぼそぼそと言葉を交わす。

「……なあ、あいつら付き合ってんのか?」
「さあなぁ。もしそうでも驚きゃしないけどさ、爽やか笑顔で『男女の友情ですっ!』って断言されても俺はもっと驚かねーぜ?」
「……………………まあな」





「うーん!やっぱりここのパフェは絶品!」

「ですよねっ!部活の後の甘いものって、ほんと格別でっ!」

周囲を引かせるほどの菓子類をテーブル一杯に並べ、行きつけの喫茶店でふたりは歓喜の叫びを上げていた。
剣道の実力も伯仲なら、甘味嗜好の度合いも伯仲。
少女にも少年にもそれ相応に菓子好きな友人はいるが、自分と同じほどに平らげてくれる人はそういない。

「……もっと、大っぴらに沖田さんを誘えたらなぁ……」

スプーンを咥えたままぼそりと零された呟きに、え?と戸惑いの声が返る。

「彼氏彼女の関係だったら、部活のない日でも一緒に喫茶店めぐりできるのにな、って」

「…………………………あの」

「あ、いや、いいんですっ!これは私の勝手な願望なんでっ!」

自分がうっかり本音を零してしまったことに気づいてぶんぶんと両手を振る。
そして相手をみやればじと目でこっちを睨んだ顔と鉢合わせ。

「だめなんですか?」

「―――はい?」

「だから、コイビトに昇格させてもらえる資格は、私にはないんですか」


そして、二人の間に、甘やかな沈黙が降りる。






喫茶店を出ると、二人はぎこちなくどちらからともなく手を握った。

「……なんか、ちょっと照れますね」

「私も。ま、ぼちぼちってことで」

「あの…………名前、呼んでもいいですか?」


少女の恥じらいまじりの言葉に、少年は嬉しそうに頷いた。



「……………清三郎さん」

「―――はい、総子さん」




風光るコネタ。


うん。



何も言うな。


名前なしでどこまでいけるかなとか頭の中で話組み立ててたら「性別逆転しても口調変わらなくないかこの二人」と気づいて、実際に書いてみたらいけてしまった、というお話。
さすがにこれは受け入れられる人と受け入れられない人がいそうです。

ちなみに執筆時間2時間だった。最短記録かも。