駆け引き



あんまり頻繁に遅刻するってのは……やっぱマズイかな。
精一杯急いではいるんだけど、何だかんだ言って夕方はやっぱり忙しい。
大通りを人ごみかき分けて必死で走ってはいるけれど…
多分、約束の時間には間に合わない。
大方15分、20分は遅れそうだ。
…半刻も遅れたら、きっとただじゃ済まないだろうな。
せっかく会ってるのに御機嫌とりに苦労しなきゃならないなんて嫌だし…。

だから俺は、少しも力を緩めることなく走り続けた。
俺だって好きで遅れてるわけじゃない。
逢いたいよ…。
早く、逢いたい。


ついこの間まで、そんなに寒くはなかったはずなのに…
いつの間にかこんなに肌に辛い気温になってる。
今日は珍しくアクアからの誘いだし、多分…時間通りに来てると思う。
待ってんだろな…あいつ。
そう思ったら反射的に、白い息を吐きながらぼんやりしてるアクアの姿が思い浮かんだ。
それとほぼ同時に、あぁ早く行ってやらなきゃって思った。

冬の日射しは忙しい。
太陽が沈んでしまえば、さっさと撤退してしまう。
今だってそんなに遅い時間じゃないはずなのに、真っ暗になってしまっている。
それでも人通りが減ってしまわないのは…この時期ならでは、かな。
急いでる身にとったら、ちょっと厄介だけど。

俺の、あまりの疾走ぶりに周囲は多少なりとも驚くらしい。
慌てて避ける人もいれば、まじまじと視線を送ってくる群集もいる。
けど…はっきり言って、今の俺にとったらどうでもいいことばっかりだ。
今は形振りなんて、構ってられない。
早くたどり着ければ、それでいいんだ。
逢っていられる時間が減っちゃうのはもったいないから。

開けた広場まで辿り着く。
時計に目をやる。
タイムでも測ってればよかった。
最低でも15分は遅れるだろうと思ったのに、10分で来てる。
最短記録だ。
まぁ…遅刻なのに変わりはないけど…。

暗くなって視界が悪い。
だけど、俺はすぐにアクアの姿を見つけることができた。
寒そうに手を擦り合わせながら、辺りを見回しているあいつ。
俺が思い浮かべた彼女と寸分変わらない状態のアクアが、ちゃんと…そこにいた。
一直線に、彼女のもとへ走る。
途中で俺の姿に気付いたアクアも向うから駆けて来てくれる。
素早い彼女は、俺が息を切らせているのもお構いなしに飛びついてきて、抱き締められた。
そして、しっかり文句も言った。


「おそいよ、ユニシス。」
「ごめん。」
「だめ。さむかったんだから。」
「だから…ごめん。」
「だ・め。ここで、いますぐちゅーしてくれなきゃ…ゆるさない。」
「…。」


困らせようと思って、言ってるんだと思う。
様子を窺うと、いたずらっぽく微かに笑っているアクアがいた。
確かに困ったよ。以前なら、ね。
今は、そんなこと言われたって狼狽えたりしない。
そんな俺の変化に、あいつは多分、気付いてないんだと思う。
するよ、キスくらい。
人が見てようが、何であろうが…関係ない。
別にやましいことするわけじゃあるまいし……。

ただ一つ、今に限って問題点をあげるとするなら、
ちょっと息切れしてるってとこかな。
酸欠で息が荒いような状態でキスができるかってな…。
だけど…できないことはない。
しろっていうなら、するさ。


どうするのか様子を窺っているような彼女を不意に引き寄せて。
驚いて目を見開いているのも無視して、そっと唇を塞いだ。
すぐに離して、一度息をついてから、改めて深く重ね合わせる。
そんな俺の行動に驚いたのか、二度目にキスした瞬間、
アクアが慌てて俺の胸を押して離そうとした。
けど、俺は敢えて気付かない振りをして、少し執拗にキスしてやった。
暴れ出されても困るので、適当なところで解放しつつ…


「もういいの?」


あたかも、今、抵抗していることに気付いたように装おう。
小さく頷きつつも真っ赤になって、
すぐに言葉が出てきていないアクアの様子が純粋で…可愛い。


「そ、それ以上したら、はずかしいよ…。」
「そうかな。」
「ユニシスは…はずかしくないの?」


自分からキスしろって言ったくせに。
そう思ったら、ちょっと意地悪したくなった。


「いや、こんなところでキスしてって言うから、
 俺はてっきり見せびらかせたいのかと思ったんだけど。」
「…っ!!ち、ちが…うっ。」


アクアが、信じられないくらい真っ赤になってる。
耳の先から首筋まで綺麗に染め上がって…。
おかしいね、いつもと逆だ。
いつもは俺が、こんな風に混乱してるような気がする。
もう、そればっかりじゃない。
今では俺がアクアを惑わすことだってできる…その事実が、なんだか嬉しかった。


「違う?ふーん。じゃ、どういうつもりだったんだ?」
「え…っ……え?」


答え難いこと承知で、わざとそんなことを聞いてみたりして。
案の定、混乱してる頭で上手い答えは見つからなかったらしく、更に狼狽えるアクア。


「あは…っ。もう、いいよ。行こっか。」
「…う、うん。」


こうやって遊ばれることが、すごく恥ずかしいんだってこと
俺は身を持って知ってるから、今日はこれくらいで許しといてやるよ。
赤い顔を隠すように俯いて、こっちを見ないアクアの手を取り、歩き始める。
しっかり手を握り返してくるアクア。
しばらく黙って歩いていた彼女だけど、急に俺を見上げて言った。


「あのね……。」
「ん?」
「ちゃんと来てくれて、うれしかった。」
「当り前じゃん。破ったりしないよ、お前との約束。」
「うん。でも…うれしかった。だから…なの。」
「……は?何が?」


その接続詞が、どこに繋がってるのか分からなかった。
俺がそれを問いかけると、アクアは恥ずかしそうに一瞬目を逸らした。
でも、結局こう言った。


「して……ほしかったの。」
「……キスの、ことか?」
「は、はやく行こ…!」


今度の問いかけには、かぶせるようにそう言った。
急に俺の手を引っぱって急ぎはじめる。


「お、おい。」
「やけいがね、きれいなの。」
「…ふーん。」


まったく…分かったよ。


「楽しみだな。」
「…?うんっ…。」


どうしても恥ずかしいらしいから、流すことにしてやった。
気紛れな女の相手は大変だ。
でも……今日は、ずいぶん俺が優勢って感じ?
あいつが本気でキスして欲しかったんだってことも、分かったしね。

もう、振り回されるだけじゃない。
俺だって、お前が惹き付けられて堪らなくなるように仕向ける事だって、できるよ。


…………多分ね。


翼翠さまのサイトで5004を踏んだらニアピン賞ということで、なんとリクエストさせて頂けました!
くぅ〜っ!藤之ってば果報者じゃのう!
ユニシス×アクアのED後ラブラブユニシス視点、というリクエストでしたが、出来上がった作品を拝見させて頂き、予想以上のラブい二人が素晴らしすぎて、魂飛びました(笑)
「アクアが好き」!って気持ちを隠さないユニシスが素敵すぎて、もうメロメロです♪
――攻めユニシス万歳!(笑)