今一度、愛を。
「瀬戸口機、ゴルゴーンを撃破!」
瀬戸口の機体――身軽がウリの軽装甲の二番機は、地面を蹴って、市街地の建物を飛び越える。
敵陣のど真ん中へと着地した二番機を標的に捕らえる前に、両の手に装備した超硬度大太刀が、次々と幻獣を屠る。
ずおおおお、と嫌な音が瀬戸口の聴覚に響く。
背後に回られたミノタウロスに、生体ミサイルを撃たれようとしていた。
――間に合わんか!
瀬戸口が被弾を覚悟したそのとき、今にも生体ミサイルを撃とうとするミノタウロスが、瀬戸口の視界の端で両断された。
生体ミサイルの誘爆を誘い、ミノタウロスのその巨体は弾け飛ぶ。
「壬生屋機、ミノタウロスを撃破!みおちゃん、すごいのー!」
ののみの嬉しそうな通信が入ってきて、一瞬遅れて瀬戸口も事態を把握した。
ミノタウロスを背後から撃破した重装甲の一番機に、通信を入れる。
『――すまんな、助かった』
『礼には及びません』
こころもち楽しそうな壬生屋の通信が返ってくる。
『いつまでもお株を奪われっぱなしでは、壬生屋の娘として名折れですから。
瀬戸口さんの後方ぐらいは、わたくしが護って見せます』
ようやく本領発揮です、と嬉しそうな声に、瀬戸口も苦笑を零す。
『そいつは頼もしい。おっと、のんびり話してる暇は無かったな、第二陣、来るぞ』
『はいっ!』
「なんていうか……あの二人、対みたいだよね」
指揮車の中で、通信を聞いていた速水が、ぽつりと呟いた。
「なんや、やぶからぼーに」
指揮車運転手兼事務官の加藤が、戦場でのんきな感想を漏らした司令を振り返る。
「あれ、加藤さんはそう思わない?
付き合い出す前から、なんだかんだであの二人、仲が良いとは思ってたんだけど」
「そら……まぁね。喧嘩ばっかりやけど、ま、あーゆーのはイヤヨイヤヨも好きの内ってやつやろし」
『加藤さんっ!!聞こえてますよっ!』
回線を開いたままだったらしく、壬生屋のちょっと怒ったような声が通信機から響いた。
「あ〜壬生屋さん、かんにんや。悪気はなかってん」
『そういう問題じゃありませんっ!!』
『ははは、いいじゃないか壬生屋。俺たちの仲を見せつけてやろうじゃないか』
『瀬戸口さんっ!!』
「はいはい、瀬戸口くんも、壬生屋さんも。いちゃつくのも怒るのも戦闘の後でゆっくりね」
『いちゃつ――速水司令ッ!!』
通信越しでも、彼女の顔が真っ赤に染まってるであろうことは容易に想像出来る。
「敵はまだ残ってるんだから、パイロットがよそ見してちゃダメだよ」
『ははは、速水、お前さんがそれを言うかね』
ぽややんに見えても優秀なパイロットだった速水が3番機からいきなり司令に異動したのはつい先日のことだ。
複座である3番機は、パイロット二人のうち片方でも欠けると出撃不可能だ。
戦闘だというのに参戦できない、と芝村が悔しがっているのを、瀬戸口は目撃している。
『だーれのおかげで、俺たちの負担がおっきくなってるのかなー?――っとぉ!』
軽口を叩きつつも、瀬戸口機は確実に幻獣を屠っている。
「瀬戸口機、キメラを撃破!」
瀬戸口の後任にオペレーターへと推挙された、茜の通信が聞こえる。
「あは、いずれすぐ空席は埋めるから。舞の戦闘能力も惜しいしね。それまで頑張って」
『ふ、簡単に言ってくれるよ、新しい司令殿は』
文句を言いつつも、それをこなしてしまうのが彼の凄いところだ。
速水は舞の言っていた言葉を思い出す。
――そなたの友は、そなたが誇るに足る。
――もうすこし、無茶をさせよ。信頼とは、多少無理をさせるという事だ。
――そなたと、そなたの友を信頼せよ。
「……無茶させた分だけ、僕も応えるから。ね」
速水は通信機を切ると、戦術画面に目を落とす。
「話戻しちゃうけど、こうやってパイロットを降りて、士魂号を駆る二人を見てると、
実際、戦い方もやけに似てるんだよね」
武術家の家に生まれた影響で、壬生屋も太刀での戦いを得意とする。
重装甲と軽装甲の違いはあれど、壬生屋と瀬戸口の戦闘スタイルはほぼ同じだ。
両の手に太刀を持ち、敵陣に飛び込み縦横無尽に、斬る。
「いや、戦法こそ同じだが――……」
オペレーター席で通信機器からは手を離さず、速水たちに背を向けたまま茜が口を挟んできた。
「――……瀬戸口のほうが、美しい」
さらりと言われた言葉に、加藤が口の端を引きつらせる。
「――自分、『そーゆー』趣味やったんか…?」
「こらまて加藤!お前今違う意味にとっただろう!そうじゃない、自分の目でよく見てみろ!
一度見てみれば、お前のようなバカ頭でも分かるだろうからな!」
茜は指揮車のメインディスプレイを光学映像に切り替えた。
そこには、二機の士魂号が、両の手に装備した超硬度大太刀で敵を屠る姿が映し出される。
「見たかて、なにが変わる言うん………あ」
異論を唱えかけた加藤の言葉が途中で途切れる。
戦術画面では数値での情報しか入ってこないが、確かに、違うのだ。
壬生屋の1番機は、先程の位置で足を止め、群がる幻獣を片っ端から斬って捨てている。
いくらかは攻撃を受けているようだが、両肩に展開式増加装甲を装備した重装甲にとっては、
それは被弾とも認識しない、ごく軽微な損傷でしかない。
そして瀬戸口の2番機は――
「2番機の被弾回数知ってるか?まだ5本の指で足りるよ」
被弾を被弾と認識しないほどの機体強度を誇る重装甲とはわけが違う。
その身軽さゆえに機体強度を殺している軽装甲は、一度の被弾が命取りだ。
後方援護にむいたその機体で、本来は白兵戦などもってのほかなのだ。
茜も幾度か瀬戸口に、太刀での戦いを続けるなら標準装甲か重装甲への改装をしろと具申したことがある。
だが『攻撃を受けなきゃいいのさ。それより手数が多い方が俺には戦いやすい』と、すげなく却下された。
無茶だバカだ命知らずだと、そのときは罵ったものだが――彼は、みごとにそれを実践してのけていた。
ナーガを突きで屠り、返す刃でキメラを薙いだ。
それを視認出来たかと思うと、次の瞬間には、地を蹴って背後をとっている。
それは、まさに舞うように。
「……ほんまに、あれがもとオペレーターかいな……」
「………あのひと……強い…から……。遠い…昔から……ずっと戦って……きたひと…だから…」
指揮車銃手兼衛生官の石津が、かろうじて聞き取れるほどの小声で、そう呟いた。
速水は、ふと撃墜データを確認する。
「戦場を舞う、死を呼ぶ舞踏……か」
瀬戸口の累積撃墜数は、近いうちに300を数えようとしていた。
撃墜数など、もう数えてはいなかった。どうせ俺が覚えていなくても、記録は残るのだ。
すでにアルガナをとったことくらいは覚えていた。
俺が怖いと、笑いながら次の瞬間自分を殺せるんじゃないかと、怯えた少年がいたから。
だが、連日の戦闘で、それすら記憶の隅に埋もれがちだった。
そして今日の戦闘を大勝で5121小隊へと帰還した俺を、彼が出迎えた。
「俺……あなたみたいになりたいです」
しゃちほこばって、顔を紅潮させて、憧憬の眼差しでそう言った少年。
本来ならば、2番機は彼が乗る予定だった。
だが、彼が戦車技能を取得するまで、空席の2番機を遊ばせておくわけにはいかず、俺が、乗ったのだ。
特攻癖の抜けない壬生屋を護るために。
あのお姫さんを護るにはどうすればいいか。
退けと言って退くような大人しい性質はしてはいない。
――なら、彼女よりさきに俺が突撃すればいい。
彼女の重装甲は、その重量ゆえに軽装甲に比較すると動きが遅い。
1番機が敵陣に突っ込む前に俺が大物を倒しておけば、自然、彼女は小物を相手にする事になる。
俺にはそれをやってのけるだけの自信もあったし、壬生屋ほどの腕前があれば、小物相手に被弾もすまい。
士魂号の整備が万全になり、彼女が戦闘になれるまでは、俺がそうやってフォローをしてやろうと、2番機に乗ったのだ。
滝川が戦車技能をとるまでの場つなぎのつもりで。いずれこの機体は返すつもりだったのだが。
しかし滝川は、俺の戦闘記録を毎日食い入るように見ていたかと思うと、突然整備士に転身した。
就いたのは、茜がオペレーターになったために1人欠員のあった、2番機。
『へへっ、これでも、『俺の2番機』だよなっ』
そう言って、俺の背中をバンバン力一杯叩いた彼の姿に、
俺は後戻りできない道を歩まざるをえないことを悟ったのだ。
「俺……あなたみたいに……なりたかった……。
でも、やっぱ無理だったみたいっす。いや、わかってたことなんだけど」
ちょっと無理した笑顔を作ったかと思うと、滝川は走り去っていった。
リアクションに迷ってるうちに取り残された俺に、1番機から降りてきた壬生屋が歩み寄ってきた。
「憧れを上回った畏怖を感じているのでしょう。
……無理もありませんでしょうね。絢爛舞踏が相手では」
はっと振り返った俺に、戦友でもあり恋人でもある壬生屋が、緊張した笑みを浮かべている。
「お気づきになられませんでしたか?今日の戦果で、累積撃墜数、300突破です。
なるだろうと、思ってはいましたが、実際に現実になりますと、やはり実感が伴います。
憧憬だけでなく――畏怖や恐怖という名の。
壬生屋の家に生まれ、戦いに慣れた私ですら、少し緊張を感じます。
他の人は如何ばかりでしょうね」
絢爛舞踏章。
5人目の、人類の規格外。
いや、正確には5人目とは言えないのかも知れない。
2度目の――絢爛舞踏章。
それを知る者は、この小隊にはいないけれど。
いや、もしかしたら、1匹いるかな?
俺は自分の手を見た。
そこには、青い光が集い始めていた。
――精霊達よ。今一度、俺に力を貸してくれるのか。昔、誤った俺を。
絢爛舞踏の名を冠したものがとる運命。
――決戦が、近い。
かつての生で、一度誤ったそれを、今一度やりなおせるのか。
「――未央」
「は、はいっ!?」
デートのときですら呼ばない名前をいきなり呼ばれ、壬生屋の声が裏返る。
頬があからさまに真っ赤に染まり、困惑しているのが可愛らしい。
――愛しい、女。
「愛は、全てを救えると思うか?全てを許せたら、世界は救えると思うか?」
俺の問いかけの意味をつかめず、困惑を隠せない表情で俺を見つめていたが、
思案気に目をつぶると、ややあって、頷いた。
「――思います。わたくしには、無理ですが。
わたくしは、兄を無惨に殺した幻獣を許す事は出来ません。
でも、もし愛をもって全てを許すことが出来る人がいるのなら――それは世界を救うかも知れません」
「――そうか」
俺はその答えに満足げに笑うと、壬生屋の手をとり、軽く引き寄せた。
ぎゅ、と軽く抱きしめると、腕の中で、彼女の身体が畏怖とは違う意味で少し緊張するのがわかる。
機体から降りたばかりで、武骨なウォードレス姿のままだったが、俺にはそんなことどうでもよかった。
「――もう一度、やり直してくるから。待っててくれよ」
彼女には分からないだろう。でも――それでいい。
俺は、聖銃に取り込まれた『彼』に、精霊手を放つ。
通信機越しに、壬生屋と坂口の会話が聞こえた。
「あれは……光輝」
「なんですか、それは」
「伝説です……人の口に出ることはあっても、決して見ることが出来ない種類の。
歴史の変わり目に現れては、同じく人の口に出ることはあっても、実際見ることは絶対無いあしきゆめ…幻獣と戦う者。
人の夢が生み出した伝説です。人が恐れるあしきゆめ、よるのやみ、幻獣と戦う…伝説。
闇深ければ、そこに輝く星あるように。太陽が沈めば人を見守る月が出るように、あしきゆめを滅ぼしに、よきゆめが出る。
人類発祥時から本来幻獣と戦うは彼ら」
壬生屋の口から、とうとうと語られる、伝説。
どこか懐かしい、遙か昔の、想い出。
あしきゆめもよきゆめも、今の俺にはこだわることではなかった。
鬼と呼ばれ、神と呼ばれ、そして今、人の身で生きる俺には。
あと一歩で撃破できるというところまで追いつめたところで、俺は戦場に棒立ちになる。
「バカ!瀬戸口、死にたいのか!」
本田のヒステリックな叫び声が通信機に響いたが、俺はそれを無視した。
戦闘で、ここまで無言で通したのは久方ぶりだった。
二度と同じ間違いはしない。
壬生屋には大層な事を言ったが、実際は世界を救うなんて、おこがましいことは考えちゃいない。
俺にはまだ、そんな器はない。
ただ、俺は友を救うだけだ。
友を失う哀しみから、戦友たちを護るだけだ。
「瀬戸口さん、やめて!戦ってください!」
悲痛な叫びが、通信機越しに俺の耳を打つ。
泣くな、壬生屋。
大丈夫。必ず帰るから。生きて帰るから。
今も昔も………たった一人の女性のために、世界を愛したかった。
俺なりの、答えがこれだ。
さあ、撃て。俺を撃て。
全てを、許してやるから。
私のGPM瀬戸口プレイ時の実録SSです。多少脚色してますが。
脚色部分は、初めて精霊手を使ったのはラストバトルじゃなくて熊本城3戦目だったってとこと、滝川の二番機整備士就任は、ホントは自薦じゃなくてPCの陰謀だったってあたりかしら。
だって戦車技能よりさきに整備技能とっちゃったんだもん、タッキーってば!(笑)
しかし、いつもうろついてる上にパイロットなりたがりのイワッチや新井木とは正反対に、滝川はいつもハンガー左側で仕事をしてる、マジメな整備士でした(笑)。
そうか、そんなに2番機に愛着あるか!と思わず嬉しくなって、彼には構いまくりました。
「ファンです!」の滝川バージョンイベントも、実際絢爛舞踏をとったあとに起きました(笑)
別名、「ラブで世界を救おう瀬戸口師匠リベンジ編」。どこがリベンジかってのは、設定の問題なんで(笑)
二度目の絢爛舞踏、二度目の決戦、そして二度愛した女性。
あああああ、創作書きてぇ!と悶えて、結局書いちゃいました(笑)
軽装甲に太刀2本で、恋人の壬生屋と、ほぼ二人で幻獣を駆逐しましたね(笑)
たまに航空支援に戦果とられましたが、ほとんどこの二人の独壇場。
熊本城攻防戦の1戦目と2戦目なんて、まさしくこの二人だけで勝ち抜きましたとも(笑)
ちなみに、5月上旬、壬生屋も黄金剣突撃勲章を受章しました(笑)