星に願いを





 その夜は、とても綺麗な流星が降り注ぎました。



 星に願いをかけましょう。
 貴方は大人。
 わたくしは『お子さま』
 背伸びしてても、まだまだ子供。
 レディと呼んでもらえない。
 気づいてもらえない。
 だから、
 貴方とわたくしがはやく対等の立場になれますように。
 
 なれますように・・・・・。



「あら?」
 廊下を歩いていたロザリアが目をやると、小さな影が一つ。
 男の子?
 その瞬間ロザリアの顔色が蒼白に変わった。
「あ、あなたっ!?何をしてらっしゃるの!?」
 ロザリアが急いで駆け寄ると、
「滑り台」
 と、いうなり、振り向くことなく、少年は、
階段の手すりで少年は下のフロアに、滑り降りた。
 な、なな、ななななななななな!??
 お嬢様のロザリアにはそんなことを見たのは初めてなわけで・・、
急いで、階段を下りようとすると、少年が駆け上がってきた。
 ・・・え?
 視線が合った。
 嘘・・・・。
 髪の色、瞳の色、顔つきが、とてつもなく似ている。
「・・・・・何?」
 おねーさん。
 俺の顔になんか付いてる?
「オスカー、さま???」
 思わず、ロザリアが口走ると、
「どうして俺の名前知ってるの?」
「・・・・・・・・・・え?」
 よく見ると、左耳には、重そうにピアスがぶら下がっている。
「・・・・・と、とにかく、一緒に来てくださらない?」
「何で?」
 きょとん、と返す彼に、ロザリアは、なんとか
自分を落ち着かせながら、ちびオスカーに尋ねた。
「あなた、どうしてここにいらっしゃるの?」
「・・・・・さあ、起きたらここにいたんだけど」
「じゃあ、大変でしょう?」
「・・・・どんなときでも、落ち着いているようにって、
父さんに言われてるから・・・・」
「オスカーさま・・」
 と、言いつつも彼の脚は震えていた。
 そんな彼に、視線を合わせるようにしゃがむと、
「わたくし、なんとかしてさしあげられるかもしれませんわ。
付いてきてくださる?」
 と優しく微笑むと、
「分かった。・・・・・ありがとう」
 おねーさん。
 オスカーは照れくさそうに、目をそらした。
 ・・・まぁ。
 子供の頃からの癖ですのね。
 ロザリアはくすり、と笑った。
「わたくしは、ロザリアよ。よろしくね、オスカー・・・くん」
 さすがに『さま』はいけない、と思ったのか、
ロザリアは呼び名を換えた。
「・・・・ロザリア、おねーさん?」
「ええ。オスカーくんはおいくつなのかしら?」
「・・・・5つ」
「そう。しっかりしてらっしゃるのねぇ」
 参りましょ、と立ち上がって、ロザリアはジュリアスの部屋に
向けて歩き出した。
 すると、
 ぴと。
 小さな手の感触。
 目をやると、オスカーがじ、と見つめている。
 可愛い・・・・・・・・・・。
 甘えんぼさんですのね。オスカーさまったら。
 思わず彼に微笑んだ。



「オ、スカー?なのか?」
 じ、と見つめられて、オスカーは、一瞬おびえる表情を
見せたが、
「はい、僕の名前はオスカーです」
 としっかり言った。
「・・・・・その、ようだな。記憶は?」
 ロザリアにジュリアスは目配せをする。
「無いようですわ。今は、5歳のただの男の子です」
「ルヴァを呼べ」
「はい〜?」
 がたん!!
「るっ、ルヴァ!?」「ルヴァさま!?」「うわあぁあああ!!」
 いきなりの登場で驚く3人の気持ちなど知らず、
のほほんとした様子でにこにこ微笑んでいた。
「なぁに?なぁに?どしたの?」
 横から現れたのはオリヴィエ。
 現れるなり、さすがはオリヴィエ。
「・・・・・・・なに、この子?あいつの隠し子?」
 そっくりじゃん。
 やっほー、と、とりあえず、オスカーに手を振った。
 その彼の動作に、ようやくルヴァが、
「おや、本当ですね〜。・・・本物みたいですが」
 サクリアからして。
 うーん、とオスカーの目の前にしゃがみ込んだ。
「オスカー、ルヴァです。私たちのことは覚えてないんですね〜?」
 ほわほわ〜としたルヴァのオーラに、警戒していたオスカーの顔が
柔らかくなった。
「・・・・・?はじめまして」
「そうですか〜、オスカーはいい子ですね〜」
 なでなで。
「ルヴァさま、少しは焦ってくださいな!!」
「まあまあ、ロザリア、ちょっと落ち着きなって」
 ね?とオリヴィエ。
「オスカー、はじめまして。私はオリヴィエだよ」
「はじめまして。オリヴィエおにーさん」
 羽根のショールが気になるのか、とててて、と近寄って微笑んだ。
「おや、素直でいい子じゃないか。これが、アレになるとは
思えないねぇ・・・・」
 持つ?とオリヴィエはショールの端っこを手渡した。
「う〜ん、とりあえず、守護聖を招集しましょうか?」
「うむ。オスカー、すまないが、つきあってもらえるだろうか?
そなたのためなのだ。良いか?」
 子供の扱いに慣れていない、と言った言葉使いで、ジュリアス。
「わかりました。頑張ります!」
 何を頑張るんだ?
 子供特有の意味のつながらない宣言に、一同は首をかしげたが、
オスカーは本気だった。



 女王候補に呼び出しがあったのは、その数時間後であった。
「ジュリアスさま、アンジェリークです」
「ロザリアです。参りました」
「入れ」
 ぎぃ、と荘厳な扉をあけると、ジュリアスの他に、年長組の、
クラヴィスとルヴァ、それにオスカーが立っていた。
「きゃー!可愛い〜!オスカーさま!」 
 アンジェリークが駆け寄ろうとするが、
「な、何?おねーちゃん!?」
 突然のことに驚いたオスカーがクラヴィスのローブの裾にしがみついた。
 そしてそんな彼の頭をクラヴィスは大丈夫だ、優しく撫でた。
「あんた、そういう場合じゃないでしょ!?」
 とロザリアが突っ込む。
「だってぇ〜」
 きょとん、とした顔でその様子をオスカーは眺めている。
「ジュリアスさま、やはり、オスカーさまのことで・・・・?」
「うむ」
 こっくり、とうなずくと、ジュリアスはクラヴィスに目配せした。
「・・・・・・この者から、強い思念のようなものが感じられる」
「・・・?どういうことですか?」
 アンジェリークの問いかけに、ロザリアも同意するように、
こくこく、とうなずく。
 クラヴィスが、ぽん、とオスカーの肩に手を置くと、
不思議そうにオスカーは背の高い彼を見上げた。
 そして、
「・・・・・誰かの強い意志が、この者に働いたのだ、
と言ったのだ」
『え・・・』
 驚く女王候補たち。
 が、二人の驚きの表情はまったく違っていた。
 ま、まさか・・・・・・。
 ロザリアの表情が青くなる。
「『強い意志を持つ』って・・・・・」
 まさか、私たち???
 アンジェリークが、答えを導き出そうとしたとき、

「・・・・・・わた、くしが、原因?です、の???」

 思わずロザリアは口走った。
『ロザリア!?』
 一同の視線が彼女に向けられた。
「ロザリアおねーさん??」
 オスカーのみが、きょとん、とした顔をしている。
「ロザリア、それはまことか!?」
「あ〜、ジュリアス」
 詰め寄るジュリアスに、ルヴァがストップをかけると、
優しく尋ねた。
「あ〜、ロザリア?一体、何があったんですか??」
 良かったら、教えてください。
 ね?
 こういうところでは、ルヴァはジュリアスよりも強い。
 ロザリアも、おそるおそる口を開いた。
「・・・・・星に、願いをかけましたの。オスカーさまが
いつもわたくしたちを子供扱いなさるから、対等に扱っていただき
たい・・・って・・・・・。でも・・・・」
 子供になれ、だなんて・・・・・。
「ロザリア」
 青ざめ、震えるロザリアの肩に、ぽん、と手をかけたのは
アンジェリーク。
「大丈夫。あなたのせいじゃないわ。大丈夫だから・・・」
「アンジェリーク・・・・」
 ふわり、と優しくアンジェリークは微笑んだ。
 こういう逆境にたつと弱いロザリアに対し、アンジェリークは
驚くほど強い。
 本当に分からない娘だわ。とロザリアはいつも思う。
「アンジェリークの言うとおりですよ。気にしてはいけません。
大丈夫ですよ。私たち守護聖は丈夫ですから」
 あははは〜、とお気楽にルヴァ。
「ルヴァさま・・・・。でも・・・・・原因はわたくし、ですわ」
 願いは純粋だったのに。
 そう、純粋だったのに。

 貴方とわたくしがはやく対等の立場になれますように。
 
 ただ、それだけ。
 それだけだったのに。 
 これでは、対等どころか・・・・立場が逆ではないの!!
 悲しくなった。
 鼻の奥がつんとなるのを、必死にロザリアはこらえた。
 そんな彼女に、
「おねーさん、俺は平気だよ?」
 オスカーが駆け寄って、ロザリアの袖をつかんだ。
「よくわかんないけど、俺、平気だから、元気だして」
「オスカーさ・・・、・・くん」
「昨日は素晴らしい流星群が見られた・・・・。
願いを託したくなるのも無理もない・・・・」
 気にするな・・・・・。
 それを後押しするようにクラヴィス。
「クラヴィスさま・・・・・」
「ロザリア」
「ジュリアスさま?」
 ゆっくりと近づいてきたかと思うと、ジュリアスは、
ロザリアとオスカーの肩にそっと手をかけた。
「私たち守護聖と、王立研究院、そして、サラとの話し合いの
結果なのだがな・・・、その、『願いをかけた者』が
もう一度強く願えば、元に戻るのでは・・・・、という結論に
達したのだ」
「え・・・?でも・・・」
「うむ。少し時間はかかる。そこでだ、ロザリア。なるべくオスカーと
一緒にしばらく行動してもらいたいのだ」
「え?」
 ロザリアは目を丸くした。
「それは、別にかまいませんけど・・・・」
 一体?
「そなたと共にいた方が、はやく影響があらわれるのでは・・・と
いう配慮だ」
 そうだな?
 と、クラヴィスに目を向けた。
「ああ。その方が、オスカー、そなたも嬉しいだろう?」
 ふ、と微笑まれて、オスカーは赤くなった。
「そ、そりゃ・・・嫌じゃないです、けど」
 ぷい、と目をそらす。
「オスカーさまってば可愛いぃ〜♪」
 くすっ、とアンジェリーク。
「こらこら、からかっちゃいけませんよ〜、アンジェリーク〜」
「・・・我々の話は以上だ。オスカーのこと、よろしく頼んだぞ」
『はい。失礼します』
「・・・・さて、どうしましょうか・・・」
 ふぅ、とロザリアがため息をついたところに、
「ロザリア、公園でも行って来たら?」
 とアンジェリーク。
「え?」
 あんた、一緒に行かないの?
「私、お邪魔だも〜ん♪」
 うふふ、と意味深な笑みをむける。
「はぁ?」
 ?マークなロザリア。
 そんなロザリアの手をオスカーが引っ張った。、
「行こ。ロザリアおねーさん」
 どうやらかなり退屈だったらしい。
 ぐいぐいとロザリアを引っ張っていく。
「あ、ちょっと、待ってくださいな!」
「行ってらっしゃ〜い」
「いってきまーす!」
「あ、あ、行って参ります〜」
 ぱたむ。

 数秒の間。

「アンジェリーク・・・気づいたか?」
 ふ、とクラヴィスが口を開いた。
 そんな彼に、待ってました!とばかりに、振り向くと、
「はい」
 と微笑んだ。
「?どういうことだ?」
「おや、気づかなかったんですか〜?ジュリアス」
 なにやらご機嫌な3人にジュリアスは困惑気味だ。
「よく、状況が理解できないのだが・・・」
「オスカーさま、ロザリアにラブラブなんですもの〜!」
「・・・フ」
「???????」
「アンジェリーク、ジュリアスに説明してやってくれますか〜?」
「ジュリアスさまっ!オスカーさまったら、私のことは「おねーちゃん」
なのに、ロザリアのことは「ロザリアおねーさん」って言ったんですよ!?」
 くやしぃーー!!!!
「まあ、あの二人はもともと仲がよかったですしねぇ〜」
 私たちから見させてもらえば。
「・・・そう、なのか?」
「気づかなかったのか?」
「ああ」
「そうか・・・」
 しーん・・・・・・・。
 妙な沈黙が訪れた。


 
「ちょっと、待ってくださいなっ」
「はやくはやくっ」
 身長差で前につんのめった姿勢でロザリアは引っ張られ続けて、
ロザリアは息切れ気味だ。
「公園の場所っ、ご存じですのっ!?」
 ぴた。
 その一言で、ようやくオスカーの歩みが止まった。
 そして、振り向かずに呟いた。
「・・・・別にどうでもいいんだ。そんなこと」
 どき。
「え?」
 嘘。
 かぁっ、とロザリアは体温が上がるのを感じた。
 な、何をうろたえてるの、ロザリア?
 今のオスカーさまは、子供で・・・、
 くるり、とオスカーが振り向く。
 子供で・・・・・・。
 思考が停止した。
 ・・・・・え?
「オスカー・・・・く?」
 それは一瞬のこと。
 瞬きをした瞬間にそれはもう、終わっていて・・・・。
 でも、一瞬、触れられたそこ、頬が熱かった。
 そして・・・・、
「俺・・・・・」
 見つめ合った瞬間。

「っ!?」

 まばゆい光!
 たまらずロザリアは目を閉じた。
「オスカーさま!?」
 思わず叫ぶが、それに応える声はない。

 が、
「っ!!」
 しっかりと、彼女の手を握る反応があった。
 え!?
 ・・・・この手って・・・・。
 力強い、大きな手。
 でも、優しい、この手って・・・・っ!
「オスカーさま!?」
 再び叫んだ瞬間、

  ぱんっ

 光が弾けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 見つめ合う二人。
 そして、オスカーはゆっくりと口を開いた。
「・・・・愛してるぜ」
 優しく微笑みを浮かべて。
「・・・・え?」
 一瞬で真っ赤になるロザリア。
「あの・・・・?」
 オスカーさ、ま??
 当のオスカーも困り顔だ。
「・・・・星に願いをかけたんだ」
「え?」

 空を流れる星たちよ。
 幾千の星たちよ。
 なあ、俺の願い、聞いてくれるか?
 単純なことなんだ。
 勇気が欲しい。
 彼女に伝える勇気が欲しい。
 そう・・・・子供の頃の、あの、やんちゃなころの、
 無鉄砲だったころの、
 無駄にあふれる勇気が欲しい。
 彼女の瞳に向かい合う、勇気をくれ・・・・。
 子供の頃のあの勇気を・・・。

「子供になっても、記憶は無くなっても、君を見ていた」
「そん、な・・・・・」
 まさか・・・、わたくしの願いは・・・。
 ロザリアは愕然とした。
 今・・・・・?
 叶えられた、ということ、ですの??
「君に想いを告げようとしたとき、『魔法』は解けたんだ。
勇気ができたから・・・」
「・・・・・本当、です、の?」
「嘘言ってどうする?」
 ロザリアの様子にオスカーは苦笑した。
「だって・・・・・、その・・・・わたくしのこと・・」
 子供だって・・・・。
「ずっと前から、君は、レディだったさ」
「えっ?」
「ただ、認めるのに時間がかかっただけさ。『守護聖が、
女王候補に手を出してもいいのか?』ってな?」
「て、『手を出す』だなんて・・・・そんなっ!」
「言っておくが、『手を出す』なんて半端なことはしないぜ?
君が、受け入れてくれるなら、俺は、君を離さない」
「オ、スカーさま・・・・・・・」
 『強い意志を持つ誰か』って・・・・・オスカーさま、のこと、
だったんですの?
 その・・・・意志の源は・・・・・・・・・・わたく、し?
 ・・・・・・・・嘘、でしょう?
 何もかもがロザリアには夢のような出来事で、瞬きをすることしか
できなかった。
 が、それも、
「ロザリア」
「っ・・・・・」
 彼の声で現実に戻された。
 はじめて名前で呼ばれたから。
「あ・・・・」
 思わずうつむいてしまう。
「受け入れて、くれないか?」
「・・・・・・・・・・・・わたくし、でよろしいのですか?」
「いいから、口説いてるんだろう?」
 ぼん!
「くど、くど、口説くだなんてっ」
 思わずロザリアは上を向いた。
「で、どうなんだ?」
「・・・・・・・・・・わたくしなどでよろしいのでしたら、よろこんで」
「ありがとう」
 そっと、握っている手に口づけた。
「あ、あの・・・」
「・・・・・・・・愛してるぜ?」
 どっきん!!
「・・・・・・あ、あの・・あの・・わたくし・・・・」
 下を向いてロザリア。
「・・・ん?」
 と、オスカーが耳を傾けると、
「その・・・・・・・・いきなりで・・・・」
 どうしたらいいのか・・・・。
 ごにょごにょ。と呟く彼女に、ふ、とオスカーは笑った。
 真っ赤になって、うつむく目の前の彼女は、本当の殻を脱いだ彼女で・・・・。
 それだけで、オスカーはひとまずは満足だった。
「まあ、気長に待つさ」
 レディ。
 ふ、と微笑まれて、ロザリアは安心したのか自分も微笑みかえして、
「・・・・・少しだけ、待ってくださいましね?」
 今にあなたに釣り合えるようなレディに・・・・・。
「もうなってるだろう?」
「もう・・・」
 わたくしから見れば違うんですの!
「ははは・・・」
「ふふふ・・・」
 微笑みあって・・・・。

 ゆっくりと歩き出した。
 
 行き先は、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・女王補佐官執務室。

〜FIN〜