ハプニング!
女王試験から、幾日かが過ぎ、2人の女王候補も聖地での生活になれてきた、そんなある日の日の曜日――。
「……アンジェリーク。……アンジェリーク?」
軽やかなノックの音と共に、女王候補の一人、アンジェリークを誘いに来た者がいた。
風の守護聖、ランディである。
己の持つサクリアの性質そのままに、爽やかなこの守護聖は、ちょうど少年と青年との中間のような位置にある。
その彼は、女王候補の1人、アンジェリークに秘かな好意を寄せていた。
しかし、秘かと思っているのは本人のみで、周りの者にとっては、彼が少女に思いを寄せているのは、一目瞭然であった。
ともかく、そういうわけでランディは日の曜日ごとに嬉々としてアンジェリークを誘いに来ているのである。
「……アンジェリーク?……アンジェ?」
いつまでたってもでてこない少女に「もう出かけちゃったのかな?」と首を傾げ、何気なくドアノブに手をかけると、扉は難なく開いた。
「……あれ?……アンジェリーク?」
鍵もかけないで外出するようなことはないだろうと、開いたドアを覗いてみる。
すると、部屋の中では、どうやら人の気配がした。
「なんだ、アンジェ、いたんじゃないか。一体どう……」
どうしたんだい、と言いかけた言葉は途中で飲み込まれた。
ランディの視線の先にいたのは、ちょうどシャワーを浴びたばかりだったのか、バスタオル一枚で佇むアンジェリーク。
人の気配に振り向いた少女がランディを認めて……。
時が止まる。
そのまま、たっぷり3秒ほど見つめ合った後、呪縛を破ったのは、アンジェリークだった。
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
少女の悲鳴が、響き渡る。
「ご、ゴメンっ!!」
その声にランディが我に返った。
「きゃ〜っ! きゃ〜っ! やだ、どうしてここにいるんですかぁ〜〜!」
アンジェリークは半泣き状態だ。
「ご、ゴメン、これはわざとじゃなくて……」
ランディが顔を真っ赤に染めて必死に言い訳するも、アンジェリークの耳には入っていない。
「やだ、もう! いいから、早く出ていってくださぁ〜い!」
「そ、そうだね! ホントにゴメンっ!」
(はぁ〜〜っ、何やってんだよ、俺……)
アンジェリークの言葉に慌てて外の廊下に出たランディは、がっくり項垂れた。
「も、もういいですよ……」
「あ……」
しばらくの後、そう言ってドアを開けたアンジェリークにランディはばつの悪そうな顔を向けた。
目があった途端、アンジェリークも頬を赤く染めて、顔を背ける。
「……どうぞ」
目を合わせないまま、アンジェリークはランディを部屋へと招き入れた。
(……気、気まずいな……)
アンジェリークがお茶の用意をする間、ランディはただ黙って言うべき言葉を探している。
「あ、あのさ……、さっきのことは……」
「い、いいんです、気にしないで下さい」
決まり悪そうに切り出したランディに、アンジェリークは慌てて言った。
「私の方こそ、すごくびっくりしてしまって……。ご、ごめんなさい。大声上げたりして」
反対に謝る少女に、ランディは戸惑う。
「いや、俺こそ、ちゃんと確認もせずに、ゴメン。君に嫌な思いさせちゃったね。俺って、最低だよな……」
「そんなことおっしゃらないで下さい。私、確かにびっくりしましたけれども、でも、ランディ様でよかったって思ってたんです」
思いがけない少女の言葉に、耳を疑った。
「……えっ?」
「だって、私ランディ様のこと好きだから……」
俯いて頬を染めるアンジェリークにランディは驚き、目を見開いた。
(い、今アンジェリークは何て言ったんだ? 俺のことを……好き? ホントにそんな嬉しいことがあるのか? ああ、黙ってちゃダメだよ。俺も言わなくちゃ! 彼女のことが好きだって……)
そう、心の中で思うと、ランディは勢い込んで言う。
「アンジェリーク、俺も君のことが好きなんだ。さっきのことはホントにわざとじゃなくって不可抗力っていうか……。で、でも、君のことが好きなのは本気だよ。ずっと、君のことを思ってた。……俺、てっきりさっきのことで嫌われたかと……」
「そんな! 私がランディ様を嫌うなんて……」
ランディの言葉に少女は慌てたように首を振る。
「でも……嬉しい」
頬を染めにっこり笑うアンジェリーク。
その微笑みに心奪われ、ランディは恐る恐る少女を抱き締める。
アンジェリークは恥じらいながらもそれに身をまかせた。
たった今結ばれたばかりの恋人達。
黙って抱き合い、幸せを噛みしめていた2人であったが……。
「でも……今度から、気をつけて下さいね」
顔を真っ赤にして、そう告げるアンジェリークに、これまたランディも顔を赤くして、答えたのであった。
「ゴメン……」
当然のことながら、アンジェリークの悲鳴は女王候補寮にいた者全てに聞こえていたので、大小さまざまな噂が飛び交い、ランディはその後たいそういたたまれない思いをしたという。
END