数学的に考える力を育む算数科学習指導
‐図的表現活動の工夫を通して‐
1 主題設定の理由
(1)社会の要請から
   今日の児童を取り巻く社会は,国際化,情報化,価値観の多様化などが進んでおり,それに伴い,自分の考えを表現する力,確かな思考力や公正な判断力など様々な力を身につけていくことが必要とされている。平成25年6月に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」では,教育の方向性として,「社会を生き抜く力の養成」「未来への飛躍を実現する人材の養成」「学びのセーフティネットの構築」「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」の4つの基本的方向性が打ち出されており,「自立」「協働」「創造」の3つの理念をふまえた生涯学習社会の構築に向けた取り組みがなされている。算数科で捉えると,子どもたちが主体的に問題に向かい合い(自立),言語活動を通して学び高め合う(協働)ことで,自分や集団の考えを発展させる(創造)ことが求められている。つまり,子どもがまず問題を考えることからスタートし,子どもたちの多様な考えを前提として学び合い,考えが高まる授業をすることが求められている。このことは本主題がめざす「数学的に考える力」を育むことに合致するものであり,意義深いものと考える。
(2)学校教育目標との関連から
   本校では、「知恵あり,豊かな心を持った,たくましい筑後北小学校の子どもを育成する」を学校教育目標とし,「自分で考える子ども」(自ら考え,判断し,表現できる子ども),「心豊かな子ども」(自他を尊重し合い,豊かな人間関係をつくる子ども),「明るく強い子ども」(健康に気をつけ,積極的に粘り強くやり抜く子ども)の3つの資質能力を持った子どもの育成をめざしている。その中でも「自分で考える子ども」において,「自分の思いや考えを表現できる力の育成」を教育課題とし,重点目標を「自分の考えを説明できる子どもの育成」としている。この重点目標を達成するための具体的なめあてとして「自分の考えをもつ」「自分の考えを書く」「自分の考えを説明する」と3つの段階を重視している。これらは、学校における教育活動全体を通して達成されなければならないが,自分の考えを持って,説明することは,論理的な思考の育成を図る算数科に負うところが大きい。このような理由から,本研究主題を設定し,これを追究していくことで,学校教育目標の具現化を図りたいと考える。
(3)本校の研究の経過及び児童の実態から
   昨年度本校では研究主題を「確かな読みの力を育てる国語科学習指導」とし副主題を「説明的な文章の「理解」「解釈」段階における「くらべる活動」の工夫を通して」として,確かな読みの力を育てるために,国語科の説明的な文章の学習において,各学年の発達段階や指導内容に応じた読解のために,理解させる内容,解釈させる内容を明らかにし,くらべる活動を通してその効果的な指導法を明らかにしながら研究してきた。その成果として,説明文の学習において叙述を根拠に判断理由を話す力がついてきていたり,事実と考えの関係を読む力がついてきていたりしている。また,2学期末に行った標準学力調査の国語の結果を見ると「書く」ことの成績が伸びるなど根拠をあげながら説明することにおいて一定の成果を得ることができた。しかし,学力テストの算数の結果では,全学年全観点とも全国平均を下回っており,特に数学的な考え方の観点の落ち込みが大きく,算数の授業改善が大きな課題となっている。このような研究の成果と児童の実態,教育的課題から,図的表現活動を位置づけた算数の指導を通して,数学的に考える力を育てることは意義深いことだと考える。
2 主題の意味
(1)「数学的に考える」とは



 

 日常の事象を数理的にとらえ,見通しをもち筋道立てて考え表現したり,そのことから考えを深めたりすることである。
 
 日常の事象を表す文章問題などから,解決に必要な数値を選択し立式したり,解決に必要なアイデアを既習の数学的な内容や方法から選択したりすることが数理的にとらえることである。例えば2年生の2位数−2位数の問題で「けんじさんは39円持っています。15円のチョコレートを買います。残りはいくらですか」という問題に対して,既習の数学的な内容や方法から「残りはいくら」に着目して「39−15」という式を立てることができる。しかし,2位数−2位数は初めて出会うので,「○を39個かいてその中から15個消す」,「39個の○から10個と5個の○を消す」,「10のまとまり3個と1を9個かき,10のまとまり1個と1を5個消す」「30−10=20,9−5=4,20+4=24」などの考えを既習から見通しをもって考えることになる。その後,それぞれの考えを比較・吟味する中で,考えの共通性に気付いたり,一般的な考え方はどれかを判断したりする。このときに「似た問題ではどうかな」と考えることが考えを深めるということになる。このようによりよい方法を学び,いつでも使える一般的な方法に高めたり,問題を解くポイントをまとめたりすることが数学的に考えることであると捉える。
 
(2)「数学的に考える力」とは




 

 日常の事象を数理的にとらえ,見通しをもち筋道立てて考え表現したり,そのことから考えを深めたりすることができる能力と,主体的に問題に取り組んだり,自分の考えを図や式などで表し,伝え学び合おうとしたりする態度である。
 
   考えを深めるためには,友達と協働して問題解決することが必要である。その中で,それぞれの考えのよさを明らかにし,考えを付加,修正,強化し価値ある考えを見出すことができる。そのためには,主体的に問題に取り組むことが必要である。数と計算領域で考えると問題事象から立式する場面では,「どういう式になるのかな」「その式になる理由を絵や図や言葉を使って分かりやすく説明しよう」と考えながら解決することである。また答えを導き出す場面では,「答えをどのように導くのかな。今までに似た場面はなかったかな」「答えにたどりつく方法を絵や図や言葉などを用いて分かりやすく説明しよう」と考えながら解決することである。そして,「他の方法はないかな」,「友だちの考えとの違いや似ているところはどこかな」,「似たような問題でもできるのかな」,「いつでも使える考えはどれかな」といったように学び合いながら解決することである。
 
 
 
(3)「数学的に考える力」を身につけた子どもの姿
   以上のような「数学的に考える力」を身につけるためには,問題解決過程で子どもが以下のような力を身につけておく必要がある。









 
つかむ
 
本時問題と既習とを関係付け,解決に必要な既習の内容,方法を取り出したり,類推したりすることができる力
  つくる
 
既習の内容,方法と関係付けて解決し,なぜそのような手順で解決できるのか解決過程を分かりやすく説明できる力
   
  高める
 
多様な考えを比較・吟味し,それぞれの考えの良さを明らかにするとともに,似たような問題に適用することでよりよい考えを判断し,その根拠を説明することができる力
   
  まとめる
 
実際に似たような問題を解いてよりよく解決できるようになったことを実感したり,自分なりに大切だと思ったことを書き留めるなど学習を振り返ることができる力
 
(4)「数学的に考える力を育む算数科学習指導」とは




 

 「つかむ」「つくる」「高める」「まとめる」という段階からなる算数科の基本的な問題解決過程において,子どもが主体的に学べるように各段階に適切な活動を位置づけて,一単位時間の学習を仕組むことである。
 
   算数科における一連の問題解決過程に「つかむ」段階では,日常事象から算数の問題を取り出し,既習とのズレや不十分さを味わい,問題を解決したいという目的意識を持って,本時めあてをつかむ。
   「つくる」段階では,本時問題と既習の内容,方法をつないで算数の問題を解決する見通しを持ち,自分の考えをつくり,解決過程を分かりやすく説明できるようにする。
   「高める段階」では,自他の解決方法を説明し合い,それぞれの考えのよさを明らかにし,似たような問題を解くことで考えの一般性を高めたり,よりよい考えを根拠をもって判断したりすることができるようにする。
   「まとめる」段階では,自分なりに大切だと思ったことを書いたり,よりよく解決できるようになったことを実感したことを書いたりして学習をまとめることができるようにする。
このような活動ができるように各段階において適切な活動を位置づけ,子どもが主体的に学ぶことができるように指導していくこととなる。
 
3 副主題の意味    
(1)「図的表現」とは



 

 思考の過程を説明するために可視化するための絵,図,グラフなどによる表現(○図,テープ図,線分図,数直線図,面積図,ドット図,関係図など)である。
 
   操作の過程を図で表し,視覚に訴える表現である。図に表すことで問題の構造を単純化でき,数学的な見方・考え方が子ども自らによってつくり出されるようになる。また,考えるという内的表現が図によって外的表現に表現し直され,考え方を分かりやすく示すというはたらきがある。
 
(2)「図的表現活動」とは



 

 日常の事象から必要な数を取り出し,その関係性を図的表現に表しながら考えをつくったり,自分の考えの根拠を分かりやすく伝えるために図的表現を使って説明したりする活動である。
 
   単元の始めや1単位時間のつくる段階では,中核となる見方・考え方を見出すために操作活動や図を用いて考えるなど図を媒介して自分の考えをつくっていく。しかし,算数科の特性として単元が進むにつれ,中核となる見方・考え方を使いこなして式を中心に抽象的に思考できるようになっていく。そのようなときになぜその式でいいのか,なぜそのような考え方でいいのかの根拠を他者に分かりやすく伝えるためには,再度図的表現を使って説明する必要がある。このように,図的表現と考えの双方向の行き来を通して数学的に考える力が育まれていくと考える。
 
(3)「図的表現活動の工夫」とは



 

 単元の各段階,1単位時間の各段階に必要に応じて,適切な図的表現活動を位置付けることである。
 
   まず,単元の導入時にその単元の中核となる見方・考え方を端的に表せる図を既習内容をもとに振り返らせ,習熟する時間を設定する。次に単元の始めの方に自分の考えをつくるための図的表現活動を仕組む。この活動は,日常事象を図に表しながら数量関係の明らかにし,それをもとに自分の考えをつくることである。そして,単元が進むにつれ自分の考えの根拠を説明するための図的表現活動を仕組む。この活動は,単元の中核となる見方・考え方を使って式などで表現された抽象的な考えを図を使って具体的にしながら自分の考えを他者に分かりやすく伝えるものである。単元全体で考えたが,1単位時間の中でもこの二つの図的表現活動を位置付けた学習活動を仕組むことになる。2年生のたし算の筆算の場面「34+25」で考えると,○を34と25かいていては,大変であると子どもは自然に気づく。そこで,10のまとまりを使った図(お金の図など)を用いて34であるならば10を3こと1を4こ,25であるならば,10を2こと1を5こかく。それを縦に配列することで,位ごとに見るという単元の中核となる見方・考え方が見えてくる。すると,位ごとに計算すればよいということに気づくことになる。このことが自分の考えをつくるための図的表現活動である。そして,それを筆算形式にまとめることになる。この単元が進むにつれ,子どもたちは筆算形式になれ,形式的に処理できるようになる。この形式的に処理できる段階で,再度なぜ位ごとに計算するのかということを問い,説明させる活動を仕組むと子どもたちは,図を使って説明することになる。この活動が自分の考えの根拠を説明するための図的表現活動である。この活動を適切に位置付けることで数学的に考える力を育んでいく。
 
4 研究の目標



 

 算数科の学習において数学的に考える力を育むために,図的表現活動を位置づけた指導の在り方を究明する。
 
 
5 研究の仮説







 

 算数科の学習において,図的表現活動を位置づけた指導を以下の視点で明らかにしていけば、数学的に考える力を育むことができるであろう。
(視点1)単元の中核となる見方・考え方を明らかにし図的表現活動を効果的に位置付けた単元構成の作成と1単位時間における図的表現活動の位置づけ
(視点2)内容を分析し,的確な「まとめ」と整合性のある「めあて」の設定
(視点3)子どもの表現を豊かにする構造的な板書とノート指導
 
6 研究の具体的内容
 (1)単元の中核となる見方・考え方を明らかにし図的表現活動を効果的に位置付けた単元構成  単元を生成,深化,発展でとらえ,それぞれの内容を分析するとともに,中核となる見方・考え方がどのように変容していくのかを明らかにする。そして,それぞれの内容に適切な図的表現を選択し,図を使って考える図的表現活動を効果的に位置付けた単元構成をする。4年生面積の学習では図に示しているように,単位正方形のいくつ分や図形の変形が中核となる見方・考え方になる。
   生成・・・正方形・長方形の面積の比べ方・表し方を考え,○○のいくつ分の広さで表す。
   深化・・・正方形・長方形の面積の求め方を単位正方形のいくつ分で考え,公式化する。
   発展・・・大きな面積,複合図形の面積の求め方を考え,公式を活用する。
生成を「つくる」段階,深化を「高める」段階,発展を「いかす」段階として単元を構成していく。
 
 (2)的確な「まとめ」と整合性のある「めあて」の設定
    まとめは本時捉えさせる内容を子どもの言葉で書いたもの。つまり,子どもが理解すべき内容そのもの。このまとめが適切でなかったら,学習自体成立しなくなる。内容分析をし,的確な「まとめ」を設定することが授業づくりの第1歩となる。
    また,的確な「まとめ」を設定したらそれに対応する課題意識をどのように持たせるかを考える必要がある。この課題意識が「めあて」になる。
このように授業づくりを考えていく場合,まずは「まとめ」を設定し,そして「めあて」を設定するという手順で進めていく。
 
 (3)構造的な板書とノート指導
@ 構造的な板書
 「めあて」と「まとめ」はもちろん,「価値ある考え」が見える板書を作る。日々の授業の積み上げがあってこそ,子ども自らが板書から価値ある考えを見出すことができるようになる。提示資料たくさん準備するのもいいですが,できるだけシンプル,クリアで構成するほうがよい。
 
 
 
 
 
 
 
 
A ノート指導
 ある程度の基本形を示し,日々の授業で積み上げていく。板書とリンクしたノートを作っていくことが大切。