移り行く日々

J.Kou

雪の団地



田んぼにも、団地の家々の屋根にも、雪が積んだ朝であった。東の空が明るんで、どことなく廃墟の色漂う団地にも、日が射そうとしている。40年を支えた木造の家は、もはや地を這いながら寄りそうかのようである。北国のような豪雪に見舞われたら、住人もろとも、雪中に深く埋もれることだろう。
顧みて親子4人、、さして幸せでも不幸せでもなかった。家にピアノの音が鳴れば、これがいわゆる中流の生活かと思ったぐらいだ。あちらでもこちらでも、中流の音が聞こえた。親たちはその音に、小さな夢、華やかな夢を描くようであった。しかしそれらは、ことごとく水の泡だったと云っていい。あたかも期待を持たせ、瞬時にして風に舞う、あの競馬券のごとしである。
いまは我が家では、孫娘が時々ピアノを弾いている。私も合わせたように、古いギターを取り出した。どうやら、赤い靴、月光、悲しみの聖堂、の辺りまで復活した。もう少し指が動いたら、アルハンブラを試みたいと思う。
私は今も、さして幸せでも不幸せでもない。しかし孫や娘の行く末を思う時、気持ちが重たくなることがある。いうなればこの、どんよりとした雪景色のようなものだ。

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