移り行く日々

J.Kou


山登り



私の登山暦と云えば、花立山、天拝山、宝満山である。宝満山ではひどい目にあった。登っても登っても石の坂、ようやくたどり着いた頂上は、かんかん日照りの禿山であった。のどの渇きで、握り飯さえ食う気にもなれず、眺望を見渡すのもそこそこに、再び下りても下りても石の上を下ったものだ。石段へ一歩を運ぶごとに、その衝動がしだいに脳天へひびくような気がした。その名山の如きにも似ず、無慈悲な山であった。しかし多くの人たちが、疲労こんぱいにもめげず嬉々として登るその秘密を知りたい。私の部屋には、新品の登山靴が袋に入ったままで掛けてある。まだ値段表も付いているだろう。それを履いて今一度アタックを試みるつもりだ。
私は同じようなことを、もうずいぶん前に云ったような気がする。周辺の人達が、体調がどうの、どこが良くないだの聞くと、私もこの辺で有言不実行を返上しなければならない。もっとも理不尽を承知で云えば、人がばたばた倒れても、自分ばかりは永久に生きるような気がしてならない。

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