移り行く日々

J.Kou


大平山へ登る



甘木の丸山公園から、大平山へ登った。散歩道のような軽い山だと聞いていたので、安心して登った。リュックの中には、500mlペットボトルの茶1本、のり巻き、カメラ、それに簡単な筆記用具である。少し登ったところに、工事中の場所があって、なかなか登山口を見つけられなかった。私はそれを尋ねようと、斜面の車に近づいたが、工事の人たちの食後のひと時であったであろう、運転席に足を伸ばし目を閉じていた。炎熱を遮るもののない車の中なのであった。私は声をかけられず、次の車の人に教えてもらった。小道は歩きやすく、日照りと木陰が交互にやってきた。山頂まで1000メートル、600メートルとの、小さな指標の板切れが有り難かった。案外やすやすと山頂へ着くことができた。そこにはまた小さな東屋があって、嬉しかった。大平山、標高315メートル、思いのほか低い山であった。しかし見渡す視界は、広々としていい眺めであった。私は東屋に腰を下ろすと、シャツを脱ぎ、上半身裸になった。わずかな風でも心地よかった。胸の辺りは、かっては胸毛のじょうさんなどと云われたが、もはや白いうぶ毛が風にそよぐかのようである。私はのり巻きを食べ、大事そうに茶を飲んだ。帰り道のために、2,3口を残した。何枚かの写真を撮り、大平山の文字を山登り証拠のように写した。筆記用具は、間近になった俳句会の作品を物するためであった。しかし無用にして役にたたなかった。鋭い鳥の鳴き声も、可憐に咲く黄色い花も、その名称を知らないのであった。だからかの凡作「育みし愛の花咲くカンナ咲く」のような調子に落ちるのである。句作するのに花鳥風月への無知では、とうてい劣勢は免れない。今日はその事に目をつぶるとして、花立山、大平山、天拝山あたりが、私には手ごろのようである。なおも古処山、宝満山への未練は残るにしても、ともかくも今日は清々しく良い1日であった。久しぶりに、心地よい疲労に身をゆだねることが出来た。
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