J.Kou

マイ ボディガード



久留米で映画、マイ ボディガードを見た。どこだったろう、子供の誘拐が日常的に行われる国である。
一人の男が、或る裕福な家庭の少女を守るために、ボディガードとして雇われる。裏の世界に生きてきた男として、鋭い眼光のこの黒人には、過去を物語るかのように、ハンドルを握る手の甲に無数の傷痕がある。笑ったことが無いというこの男に、しかし人懐っこく、おませな少女は、いろいろと話しかける。水泳で友達に勝てないという、この少女の泳ぎを見て、男は言う。泳ぎははやいんだが、スタートが遅れている、号砲のピストルの音を恐れている、恐れるな、号砲を怖がるな。繰り返し練習する少女の肢体が、プールの水中にダイナミックに映し出される。そして少女は、ついに優勝することが出来た。少女は、これは私のお小遣いで買ったのと言って、お礼に縫いぐるみの熊を男へ差し出す。それを見つめる男の表情に、かって経験したことのない感情が、大きく波打つかのようである。ある日の勉強を見守る男へ、少女はおませな質問を連発する。恋人はいるの、初恋はいつ、キスしたの?笑い出しそうになった男に、少女は、あ、初めて笑ったと言って喜ぶ。男は、笑ったのではない、にやついただけだと、笑いを押えたように言い返す。
こうして、男の殺りくの半生になかった情感が、彼の胸に広がり、少女の心が深く刻まれる。
その少女がついに誘拐された。男は銃を取り、再び殺りくの世界へと身を投じる。誘拐にかかわった奴らは皆殺しだ、彼女は俺に新しい生を与えてくれたのだと。
それから一味との、凄惨な銃撃が繰り広げられる。最後に男は、自分の命と引き換えに少女を救い出す。母親と逃れる少女と、銃口を向けられた男との別れの場面で、映画は終わる。キャストの文字が流れ、男性歌手の、哀調を帯びた歌声が流れた。映画の余韻に、身を委ねるかのように、私はその歌声に聞き入った。楽器の伴奏のない人間の歌が、これほど身に沁みるのかと、私には予想外にさえ思われた。その後ひとしきりギターが流れた。

表紙へ 目次へ