移り行く日々

J.Kou



青い空



青い空がふかく広がっている。やわらかい日差しがまぶしく、風景は誰の目にもやさしい。私は1人でゆっくりと歩くのだ。するとわけもなく、青春の日の夢や思い出がよみがえるのだ。ぼくたち、高校2年生だったなあ。言葉を交わしたこともなかったのに、制服の胸に、学校のバッジをつけていた君を思い出す。みじかい髪を、でこのところでピンで分けてさ、背が低かったのでいつも前の席でさ、君の笑顔がよく見えたよ。あの頃であったか、舟木一夫の、高校3年生の歌があってさ、赤い夕日が校舎をそめて、とかとてもよかった。あれから何10年過ぎても、あの青い空のどこかに、あの時の姿のままの君がいるような気がする。いやきっと、この地上のどこかで生活しているのさ。君もぼくとおなじように老いたのかい。腹が出っぱって、皮ふがたるんでさ。いやどんな月日も、君のかたわらを素通りしただろう。あの日のままの君の笑顔が、ぼくの胸に息づいている。どうだい、青い空からなりと、地上の果てからなりと、もう一度ここへやって来ないかい。ほら、車があそこに見えるだろう。あれに乗ってさ、北の国なり、南の島なりへ走ってしまおうか。夏は、誰はばからぬ恋の季節なのさ。そんな歌もなかったかなあ。私は川の岸辺を歩いた。遠くに山々が連なっている。山か、私は息も切れ切れの登山を思い起こした。高校2年生の彼女の面影と山の遠景と、私の心は過去と現在とのあいだを、自在に遊ぶようであった。
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