身辺日録

J.Kou


俳句


吟行


           戦乱の異端の将か義仲忌
          春寒し訃報の電話鳴りにけり
          戯れて流るる如し春の雲
          下駄箱に梅一輪の花瓶置く
          迷い来て尋ねし道の犬ふぐり
          咲く梅と咲かざる梅の史跡原
          梅の花新築の家祝すなり

口付けの形に見ゆる春の雲、こんな句も出来たが提出に迷いもあって、同じく、S11年生まれのようこさんに感想を尋ねたものだ。ようこさんは即座に、駄目と言った。主観的すぎる、それに口付けなんて汚いと言ったものだ。いや、行動でなく想念だから、奔放なる発想と云えないだろうか。駄目、だめなものはだめ。傍らに居た、やはりS11年のきよこさんも笑っていた。だが、口付けが汚いとはよく断定したものだ。衛生的には、口中には無数の雑菌がいて、そこに相手方が加われば、2倍に膨れ上がるわけだ。しかし私は、老人の雑菌の交流を想定していない。青春の発露、英国語KISSのイメージなのである。そう云いながらも、提出をためらったのは、やはり老人の恥じらいであったか。ようこさんの女性としての直感が、正しかったかも知れない。
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